「うー……………………」

 窓に寄りかかって、きしんだ腰を抑える。
 眼下では制服に身を包んだ同校生たちが、はしゃぎながら登校して来る。
 にぎやかな、明るい笑い声。
 俺たちとは違う。
 俺たちは、その世界の影に生きているのだから。
 それにしても……。
 すっげえ痛い。
 腰、首、肩。
 身体の内側から何かが弾け出すような、関節の痛み。
 今までにどれだけダメージを負っても、これ系の痛みは経験ないな。
 昨日の真田との戦い。
 その後遺症である。

「………………うぐっ……」

 少し身体を動かすと筋という筋が、ぴきぴきと音を立てる。
 引っ張っちゃいけない方向に伸びていくようだ。
 これが『真田』か。
 戦ってる最中は、我慢すればそれで済むと思っていたのだが。
 全然済んじゃいねえ。
 真田と屋上で打ち合わせした後別れて、若宇の家に行く途中から、だんだん身体がおかしくなってきた。
 なんていうか……。
 全身に、糸付き分銅付きの針を打ち込まれたといえば、解り易いだろうか。
 刺すような引っ張るような痛み。
 石川の家に帰って『若宇の日記』を書く頃には、ピークだった。
 かつて経験した事のない、鋭くて鈍いダメージ。
 おかげで昨日は、殆ど眠れなかった。
 ……………………。
 まあ、痛みのせいだけじゃないんだけどな。
 真田の昔話。
 それが頭から、離れない。
 
「……真田……か……」

 古今東西、忍者の末路などというものは、悲惨以外何物でもない。
 敵に切り刻まれる奴、味方に裏切られる奴、親兄弟に後ろから刺される奴。
 だから真田の過去も、さほど珍しいわけじゃない。
 だが……。
 忍者にとって私闘とは、復讐ふくしゅうと同義語である。
 なのに真田は……。

「……私が……なに?」
「!?」

 背後からかけられた声に、一瞬肩が上がる。
 声の主は……真田かよ。
 びっくりした。
 びっくりしたが……それを悟られるわけにはいかねえ。
 口惜しいからな。
 平静を装いつつ、軽く振り向く。

「普通の校舎で、気配なんか消してんなよ」
「……消して……ないわ……」
「……………………」
「……………………」

 俺、そんなに上の空だったか?
 ま、それは兎も角。

「お早う」
「……」

 真田は、軽く首をかしげた。
 あれが挨拶のつもりなんだろうか。
 真田の今までには、愛想なんて表現はなかったのだろう。
 今まで学校になんて、通った事無かったらしいしな。
 俺の同期にも、そんな奴居るけどよ。

「早いんだな、真田。まだ七時半だぜ」
「……アパートに居ても……やる事……ないから……。……貴方こそ……早いのね……」
「俺は、若宇の事情でな」
「……事情……?」

 この学園は、朝八時半から開始する。
 今眼下を通り過ぎる学生も、部活動の朝練だろう。
 勿論俺や若宇が、部活動になどはいるはずもない。
 俺たちは、光の世界とは決別しているのだから。

「あの馬鹿がよ。たまーにサボりたくて逃走するんだ。俺や学園から。でも『百地』から……てゆうか静流様から、必ず学園に連れてくるように、厳命されているんでな。アイツを捕まえるには、三十分くらい必要なんで、前もって早く来る事にしてるんだ」
「……それでも……早過ぎない……?」
「アイツは必ず、二回逃げるからな」
「……………………」

 今……。
 真田、笑ったか?
 微かに見えた、真田の微笑み。
 なんか……心臓が打たれたような感覚。
 東條とうじょう李轟りごう流柔術の『鎧通し』なみの衝撃だった。
 解り辛いか。

「……あの……」
「ん?」
「そんなに……早く出るから……逃げたがるんじゃ……ないの?」
「……………その発想は無かったな」

 初めて。
 初めての真田のツッコミ。
 なんか、新鮮だな。
 もしかしたら、この女。
 面白いかもしれない。
 俺の周りには居ないタイプだ。
 一人だけ、こういう溜めた喋り方をする女性も居るが……。
 あの人は黒すぎるのだ。
 同じような喋り方でも、真田は透き通ったようなイメージがある。

「……………………なに……?」
「いや、なんでもねえ。それに、遅く出たとしてもよ。あいつが愚図ぐずるのには変わりねえんだ」
「……そうなの……?」
「ああ。朝寝ぼけている時を見計らって、風呂に入れるだろ。その流れで服を着せて朝飯食わせて、ボーっとしてる間に登校させる。これでなかなか、大変なんだぜ」
「……………………」

 真田の顔が、一瞬で赤面した。
 まるで聞いてはいけない事を、聞いてしまったような表情。
 なんだ?
 俺が若宇の身の回りの世話をしている事は、既に知っているはずだが。
 何故そんなに、顔を赤くする?

「どした?」
「……………………」
「ん?」
「貴方が……貴方……が……お風呂……入れてるの……?」
「ああ」
「……………………」

 真田の顔が、ますます赤くなる。
 なんか、珍しいものを見てる気になってきた。
 でもなんで……あっ!?

「ちちち、違うぞ。違うぞ真田」
「…………」

 真田の隻眼が、細目に成っている。
 あれは羞恥心と猜疑心。
 今俺、蔑まれてる?

「風呂を入れるってのは、風呂にお湯を入れるって意味だ。決して若宇の事を風呂に入れて洗うって意味じゃねえぞ」
「……………………」
「本当だってえの。なんだその、好奇心と懐疑心の混ざったような目は」
「……そんな目……して無いわ……」

 と言いつつも真田の瞳は、悪戯っぽい光を浮かべていた。
 なんか……。
 こういうのって、楽しいかも。
 俺と真田。
 三日前に会ったばかりなんだが、な。
 やっぱり昨日の戦い。
 そしてその後の悪巧みが、功を奏しているんだろう。
 まあ……共通の敵も居る事だしな。
 あの馬鹿をギャフンと言わす。
 まさか真田の目的が、本当にそれだとは。
 アレをギャフンといわせるのは、俺の悲願でもある。

「アイツに対して、そんな色っぽい感情なんかねえよ」
「……そう……なの……?」
「ああ。アイツも俺には、そんなのねえだろう。なんせアイツは、上半身裸で寝てるんだぜ。まるっきり餓鬼だよ、餓鬼。男として意識してない証拠じゃねえか」
「……………………」

 また真田の顔が赤くなった。
 面白い。
 無表情だと思っていた真田だが……。
 色々な感情を、その隻眼に浮かべている。
 おもしれえ。

「……それは……見てるのね……」
「なにを?」
「……百地若宇の……上半身……の……その……」
「……ああ。不本意ながらな。アイツを起こすのは、俺の仕事だからな。静流様も師匠も、レイナさん―――若宇の家で働いてる従業員の人な―――も、起こす事が出来ねえんだ。何で解らないけど、昔っからだ」
「……………………ふうん…………」
「ホントだってえの。おかげで俺、朝鍛錬の時間を割かなくちゃ行けねえ。本当に厄介な女だ」
「朝の……支度もしなくちゃいけない……し」
「その通りだ。アイツの髪まで梳かしてるんだぞ、俺は」
「……………………ふふっ……………………」

 今度は確実に笑っている。
 隻眼を細めて、口元を緩めて。
 まだ出会って、三日なのにな。

「だから時々、嫌がらせするんだ」
「……ふふっ……」
「アイツはああ見えて、極度に敏感なんだ」
「…………………………びん……………………かん……………………?」
「ああ」

 真田の表情が一瞬変わった気がしたのが、俺は構わず喋り続けた。

「何でか解らんが、昔から若宇はくすぐったがりなんだ。特に胸と背中への刺激に弱い。俺が知ってる、アイツの唯一の弱点って所か。秘密はいくつか知ってるけどな」
「……………………」
「どうだ、真田。そこら辺を重点的に責めてみれば。『真田』にも、色吊いろつりは在るんだろ? 飛び技と極枝きょくしに加えて、色吊まで融合させえれば、対若宇戦に最適じゃねえか?」
「…………………………」

 急に真田が、きびすを返した。
 後ろ髪から見える頬が、真っ赤に染まっている。
 ……………………。
 あれ?

「……………………石川……十哉……………………」
「はい?」
「…………私の…………私の前で…………えっちな話は…………するな……………………」

 そう言い残すと真田は、足早に立ち去った。
 ……………………あれ?
 ……………………。
 ……………………。
 テンション上げ過ぎたのか、俺?














第四話 『友達のように』
















「なーにやってんっだよ、お前はぁっ!」
「うぐっ!?」

 真田を見送る呆けた俺の背後から、いきなりの奇襲。
 首に巻かれた布が、気道を圧迫している。
 これは……背広の袖?
 俺は瞬時に、自分の首を両手で掴んだ。
 喉部の側面から圧迫し、ひしゃげた気道を押し戻す。
 通常の呼吸は困難だが、これで何とか発声は出来る。
 極枝の対しての、緊急回避手段だ。

「おおー。良い判断だ、十哉。意外な行動に見えて、実は理に適っている。まあこのままだとよー、後数十秒でキマっちまうから、次の手段を講じる……」
「……てゆうか……師匠……」
「ん?」
「ヤバイ……んスけど……」
「じゃあそのまま死ねばーぁ?」

 師匠の極枝は、地味だ。
 今もただ単に、ジャケットの袖で俺の首を絞めているだけ。
 そっちの腕は……もう無いからな……。
 だが地味な分、確実に入っている。
 そりゃもう、絶命まで一直線で……絶命?

「し……しょうっ!」

 袖で引かれている身体を、抗わずにバックステップ。
 後頭部で師匠の鼻を……。

「甘っ」

 撃つ事は出来なかった。
 俺のバックステップに併せて、師匠も身体を引いたからだ。
 いまだ首は極められている。
 師匠は袖を巻き込んで、後ろを向いた。
 この技は……。

「伊賀崎流、袖巻き一本背負い」

 そんな技、ねえだろ。
 しかし俺の身体が、宙を浮いているのは事実。
 ならば。

「……っ!」
「お?」

 投げられるよりも早く、自分で後方回転。
 首を強引に引っこ抜き、袖による圧迫から脱出しつつ、自分の腕を師匠の首に巻きつかせる。
 脇に抱え込むように。
 伸びた足を、丸め込む。
 回転を加速させるためだ。

「……らっ!」

 後方回転力を利用して、師匠の義足へ足払い。
 勿論首は抱え込んだままだ。
 結果……。

 ごおん。

「……いでぇっ!?」

 朝早い廊下に、師匠の頭蓋骨が悲鳴を上げた。
 後方回転しつつ、相手の首を抱え込み、足払いと共に頭蓋を叩きつける。
 なんてえ技かは解らんが、師匠が使ってるのを見た事があった。
 てゆうか、食らった事があるのだ。
 それにしても……忍者のくせに、『痛い』はないだろ、痛いは。
 なんでその一言を、押し殺せないかなあ、この人は。
 呆れつつ立ち上がって、突っ伏したままの師匠を見下ろす。
 多少見下してるかもしれない。

「……お早う御座います、師匠」
「おう。まさか、今のが使えるとは思わなかったぜ」

 差してダメージは無いのだろう。
 師匠は廊下の床から額を引き剥がし、すっくと立ち上がった。
 額で受身を取られたか。
 一般的に額や後頭部では、受身は出来ないとされている。
 一般的には、だ。
 俺たちくらいの忍者に成ると、全身のあらゆる箇所で、受身を取ることが可能となる。
 覚悟していれば、だ。
 今の攻防でも師匠は、首関節を上下する事で、衝撃を拡散させている。
 一歩間違えば、首の骨が折れる技法だ。
 それを、こんな下らない攻防でも使えるなんて。
 何気に高等技術なんだけどな。

「お前も成長したなー。そろそろ、俺の色吊を伝授すべき時期に……」
「いらねえよ。てゆうか、額拭けよ」
「おろ?」

 満面の笑みを浮かべる師匠の額は、真っ赤に染まっていた。
 額で受身を取った代償なのだろう。
 ぽたぽたと零れる血が、Yシャツのカラーを朱に染めていく。
 怖いよ。

「ああっ!? お前、Yシャツが血だら真っ赤になったぢゃねーかっ!」
「……」
「弁償しろよ、弁償! くっそっ! 今月も小遣いピンチなのによぉー!」
「…………アンタが仕掛けてきたんだろ…………」

 相変わらず、金銭的に弱い男だ。
 若宇と同じで、貯金なんて概念が無いからな。
 てゆうか師匠……。
 小遣いなんて貰ってんのかよ。
 忍者なんだから、自分で稼げよなあ。

















「で、説教の続きだ」
「なんのだよ。てゆうか今の、説教だったのかよ」
「説教だ」

 説教だったのか。
 何の説教か、まったく解らんが。
 しかも続くらしい。

「お前は……ホンットーにどーしょーもねーなっ!」

 いきなりエキサイトしてるぜ。
 師匠は忍者のくせに、感情を消すのが非常に下手だ。
 怒っている時、喜んでいる時。
 顔一杯に、己の感情を表してしまう。
 それが良いかどうかは……解る。
 良い訳ねえだろ。
 忍者は、己の感情を押し殺す種族だ。
 古臭い言い方なんかだと、『刃の下に心を隠す』って事に成る。
 それが忍び。
 それなのに師匠は……ひょっとしたら、忍者じゃないのかも知れん。

「きいてんのかっ!」
「……ああ。……え? なにが?」
「だからぁ! ……………………」

 途端に師匠が呆れ顔になる。

「……いいか、十哉。お前は何だ?」
「……何だって問われても……」

 アンタこそ、なんなんだ。

「いいか十哉。お前は忍者だ。それは解ってる。聞かなくても、そのように設定されてるからな」
「設定なんかねえよ」

 時々師匠は、わけの解らない事を言う。
『設定』だの『イベント』だの『シナリオ』だの『キャスト』だの。
 それが何を指すのか、まったく解らん。

「確かにお前は忍者だ。『百地』を守護する、史上最年少の石川流双爪そうそう伝承者。それが石川十哉とゆー人間だ」
「……何が言いたいか、さっぱり解ら」
「だがお前は、忍者である前に、一人の男だろぉっ!」
「ん?」

 人の思考を煙に巻くのが、いつもの師匠トークなのだが……。
 いつも聞かされている俺にとっては、予定調和の説教だ。
 ああ、まただよ。
 またエロ話術か。

「いいか十哉っ! 今の場面は、自分のセックスアピールをするイベントだろぅっ! なのに貴様とゆー奴はぁ! 気になる女と喋れた嬉しさからテンション上げ過ぎて、己のアピールを忘れたばかりか、逃げられるなどとわっ! ああ、情けない。何故貴様は真田の髪など撫でてあげんのだっ! 『若宇の髪もそこそこだが……白雪の髪は、もっと綺麗だな……』とかっ!」
「…………とかとか言われてもなあ…………」
「ああ、情けないっ! 俺は今まで何をお前に教えてきたというのだっ! 師匠として、ホントーに情けないぞ、俺はっ!」
「……………俺はアンタが師匠だと言う事実が情けない」

 自分で言い訳しなければいけないのが、さらに情けないが……。
 俺は別に、女性の扱い方などを教わっているわけじゃない。
 いや……多少は伝授されている気もするが……。
 だが、それがメインじゃないのだ。
 俺が師匠から教わっているのは、単純だがレベルの違う体躯。
 身体の隅々を駆けるようにコントロールする。
 それが師匠の教えの全てだ。
 見た事の無い拳の振るい方、独特な投げ物の扱い方、奇妙な身体の裁き方。
 師匠のおかげで、俺の石川流も随分とオリジナルに近くなった気がする。
 抜刀術と体術の融合。
 石川流抜刀術をベースにしつつ、未経験な体術を加えてゆく。
 他流派のどの体躯とも違う。
 技の一つ一つをとってもそうだ。
 例えば投げ技。
 関節を取ったり、打撃のインパクトを利用したり……そんなのは、陰忍では当たり前のことである。
 技は単独で構成されるのではなく、複合であるのが常識だ。
 しかし師匠の陰忍は、あまりのも独創的だ。
 切り替えされる事を前提とした、あるいは破られる事を予定調和としている節がある。
 対陰忍用の陰忍。
 独特なリズムを持った陰忍。
 だから師匠は、俺の師匠なのだ。
 その師匠から……ある意味、本当に尊敬している師匠から……。
 こんな説教を食らうとは。
 説教の内容が、情けなさ過ぎる。

「とゆーことで十哉よ」
「どんな訳だか、さっぱりだ」
「お前には、新たな試練が必要なようだな」
「聞けよ」

 ……あれ?
 今なにか、不穏当な発言があった気が?

「って試練?」
「そうだ、十哉よ」

 そこまで言うと師匠は、俺に背を向けた。
 腕組みしつつも、胸を張る。
 なんか嫌な予感が……。

「いいか十哉。俺はお前の事を、買っているんだ」
「はあ」
「俺の周りに居る、無数の男ども。まあ俺も含めてなんだが……お前のようなタイプは、今まで存在しなかった。そりゃ漫画やドラマやゲームの中には、腐るほど居る」
「てゆうか、忍者がドラマや漫画なんか、見てんじゃねえ」

 まあ俺も、たまに見るけどよ。

「いいか十哉。お前には……ハーレムスターの素質があるっ!」
「……………………はぁ? なんだそりゃ?」
「ちなみに効果音は、『ババーン』だ」
「聞いてねえし。てゆうか、俺の話を聞けよ。何だよ、ハーレムスターって?」

 まあ、大体想像は付くのだが。
 どちらにせよ、くだらない事には違いない。

「今まで俺が出会ってきた男たち。それは一人の女性に心奪われ、最後まで一穴主義を突き通した男たちだった。お前の親父……石川康哉も、そんな人間の一人だ。そりゃ伴侶と死に別れ、新たな穴を持った男も居る」
「穴て」

 その瞬間、俺の頭に一人の巨人が、シルエット状態で浮かんだ。
 ああ、あの人な。
 今は行方不明と成っている、喫茶店のマスター。
 なんでも現在は、喫茶店の経営を一人の薄胸従業員に託して、全国行脚の最中だという。
 何のための行脚だか、さっぱり解らんが。
 時々『百地』を通じて入る目撃情報によると、誰かを探しているとの事。
 まあ師匠の親父さんだしな。
 どうせ下らない理由なのは、想像に難くない。

「だが皆、同時に複数の女性と通じる事は無かったのだ」
「…………」

 さも偉そうに言ってるが、それは当然の事じゃないのか?

「俺も若い頃は、色々な女性が周りに居た」
「……………………」

 何故か師匠の表情が、背中越しに伝わった。
 あれは……悲しみ?

「選り取りみどりだった……選り取りみどりだったさ……」

 師匠の身体が、ふるふると震えだした。

「だが俺は静流を選んだ。後悔なんかしてないさ。静流の乳。あれは素晴らしいものだ。だが……だがな十哉っ!」
「うわっ!?」

 振り返って俺の肩を掴んだ師匠の瞳から……涙?
 むしろ血の色に近い涙が、隆々と流れ出していた。
 本気だ。
 この男、本気で泣いている。

「俺は今でも思う。何故、ハーレムルートを選ばなかったのかということをっ! そりゃ静流は幸せに出来ただろう。だがもっと……もっと数多くの女性を、肉体的に幸せに出来たんじゃないかという事をなっ! 主に肉体的にだっ!」
「アンタに選ばれた静流様の、何処が幸せなんだろうなあ……」
「解るか……解るか十哉ぁっ!」
「解んねえよ」

 あまりにもイライラしたので、取り乱した師匠の右頬を狙って、拳を放ってみる。
 石川流の握拳法、『実篤さねあつ』だ。
 普通のパンチは、外から内側に捻る様にして放つ。
 その方が、捻力を伝え易い。
 対して石川流の拳握法『篤実』は、小指を外側に引っ張るような感覚で撃つのだ。
 丁度、見えない刀で切り裂くように。
 対真田戦の時、刀を握ったまま拳を放った時があったが、基本的にはあれと同じ概念である。
 しかし。

「甘」

 かわされては、どんな技法だろうが意味を成さない。
 取り乱しているはずの師匠は、拳の軌道から消え去った。
 不味い。

「……ぐっ!?」

 足の甲に激痛。
 見る間でもなく、師匠の拳が突き刺さっているのだ。
 足の甲骨というのは、意外に鍛え辛い。
 人体の構造上、強くなるようには出来ていないのだ。
 補うためには、甲の僅かな筋肉を鍛えるしか方法が無い。
 そして石川流は、抜刀術である。
 接近戦で膝や肘を使う事があっても、蹴り技は殆ど持っていない。
 蹴りの間合いに居れば、抜刀するからな。
 つまり、何が言いたいのかというと……。
 鍛えてない足の甲を殴られれば、泣くほど痛いって事だ。
 激痛により、一瞬動きが止まる。
 この技には……覚えがある。
 覚えがあって尚、対応できない。
 足の甲を打ち抜かれたと同時に、全身が硬直しているからだ。

木走きばしり

 師匠の呟きと共に、足首が掴まれる。
 立ち上がる力を利用して……。

「!?」

 俺の身体が、斜め後方に投げ捨てられた。
 俺の身体が、まるで棒切れのように回転する。
 俺が師匠を師事する理由。
 それはこういった技を、事も無げに繰り出すからに他ならない。
 どの流派も持ち得ない、独特のリズムから繰り出される独創的な技。
 これが京都大戦を収めた、隻腕隻脚の忍者。
 一介の流れ透破すっぱながら、時代を変えた力を持つ男。
 それが、伊賀崎大河なのだ。

「ぐはっ!?」

 感慨に耽っていると、後頭部にシャレにならん衝撃。
 どうやら廊下の天井に、頭をぶつけたらしい。
 トランポリンなる遊具を、初めて知った少年忍者が引き起こす、不幸な事故に良く似ている。
 飛び過ぎて頭をぶつけたのだ。
 ここは野原じゃないもんな。

「そして、伊賀崎流空中コンボぉっ!」

 棒切れのように落下する俺の真下で、なにやら不穏当な発言が。
 空中コンボって、何……?
 そう思った瞬間、腹部に鈍痛!

「おらおらおらっ!」
「ぐっ!?」

 多数の掛け声とは裏腹に、一発のみの拳が突き刺さる。
 しかしこの打撃のせいで、受身を取ろうとしていた体勢が崩された。
 強制的に吐いた呼吸を取り戻す暇も無く、後頭部が廊下に叩きつけられる。
 意識が……霞が……かかる。

「やっぱ漫画やゲームと違ってよー、空中での連続追い討ちってーのは、無理だなー」

 そんなの……俺で試すなよ……。
 しかし……何故ここまで……攻撃を繰り出す……んだ……?
 ……確かに……師匠に殴られるのは……初めて……じゃ……な……。
 だが……ここまでする……必要……が……。

「ああ―――っ!?」

 遠くで……アイツの……。

「どどど、どーしたの、おとーちゃん!?」
「来たな、若宇。おはよーさん」
「挨拶なんか、してる場合じゃねーっつーの! 誰にやられたの!?」
「ああ、これは……」
「その額の傷!?」

 ……そっちか……よ……。

「いや若宇よ。俺の足元に転がってる奴、見てみ」
「……………………そのゴミ屑みたいなのは……ペケッ!?」

 身体が……温かい……包まれ……揺さぶられ……。
 ……揺さぶっちゃ……駄目だ……。

「一体誰がっ! こんな弱い奴に、こんな酷い事をっ!?」

 弱い……お前の……親父だ……よ……。

「教えてやろう、若宇。それは……謎の美少女転校生の仕業だ。敵か味方か、悪魔の使いか」
「世紀末覇者伝説っ!?」

 ……………………いや…………アンタ……だ……………………。

「一瞬だった。まさに一瞬だったさ。突然現れたと思ったら、俺たち二人を。十哉も善戦したんだが、一瞬真田の胸元に気を奪われた隙に……。不覚を取った」
「おとーちゃんも、ゆっきーの胸覗いてたのかよっ!」
「……いや、ポイントはそこじゃねーよ」
「そうだっ! ツッコミどころは、そこじゃねー! おいペケっ!」

 ゆさゆさ。
 揺らさ……ない……で……。

「お前、毎朝アタシの生乳見ておいてっ! 今更どーゆーつもりなんだっ! 一瞬見えた乳の方が、そんなに扇情的ですかっ!? それがチラリズムって奴ですかっ、ええっ!?」

 ……そこも……ポイントじゃ……ねえ……。

「許さねえ……友達になれると思ったのに……許さねえ……真田ゆっきーっ! 主に乳が許せねえっ!」

 ごいん。
 落とさ……ない……で……。
 ……足音が……消えて……忍者のくせ……に……。

「おーおー。元気に走り去っていくぞ。てゆーか、何処行くんだろうな、アイツ?」

 ……のん気な……こと……。

「なー十哉。お前は甘いんだよ。本当に若宇を本気にさせたかったら、このくらいの犠牲は欲しいところだろ、なあ、おい」

 …………。

「口で負けたってゆーくらいじゃ、アイツは本気にならねーよ。若宇はヒロインじゃなくて、ヒーローだからな」

 ……………そ………か………だか……師匠…………。
 ……で……やり過ぎ……。

「後は放課後だな。う―――っ! 楽しくなってきたなー、おい♪」

 意識から手放す瞬間、楽しそうな表情が覗き込んでいた。
 その表情が一瞬で、真剣に変わる。

「なあ、十哉」

 実はかなり回復してきている。
 打たれ強さは、俺の長所だからな。
 だが次の師匠の一言を聞いた瞬間、自ら意識を手放した。
 考えるのが、面倒くさかったからだ。

「若宇がヒーローだったらよー。……お前は、なんだろうな?」

 ……………………。
 しらねえし。





























 背の高い雑草が、春の風になびく。
 一面、緑の命。
 緑海の中で二人が対峙する。
 お互いに無手。
 まだ対峙して、間もないのだろう。
 地べたに転がされた俺の尻も、まだ水気に犯されては居なかった。
 ……………………え?

「どーゆーつもりなんだ―――っ!?」

 真田と向き合っていた若宇が、いきなり怒号を発する。
 珍しいな。
 アイツが、本気で怒ってるなんて。
 あいつの本気の怒りを見たのなんて、いつ以来……………………え、え?
 冷静に考えると。
 ここはたしか……師匠から教えてもらった、隠し湯の近く。
『百地』の裏山だ。
 てゆっても、この街の殆どが『百地』の敷地なんだけどな。
 ……いやいやいや。
 考えるべきは、そこじゃねえ。

「……なにが……?」
「何故あそこまで、ペケを痛めつけた!?」
「……あそこまで……? どちらかと言うと……私の方が……痛いんだけど……」
「いいや、ペケのほうが痛いに決まってるだろーっ! あいつは弱いんだから、苛めんなーっ!」
「苛めてなど……居ない……」
「苛めたっつーのっ! ほら、涙目になってるじゃねーかっ!」

 二人の視線が、俺に向けられた。
 若宇のエキサイトした瞳と、真田の困惑した隻眼。
 無論俺も、混乱している。
 何故俺は……ここに居る?
 確か師匠にド突かれて、意識を失って……。
 俺よりも早く、真田は事態を把握したんだろう。
 一瞬、微かに唇を歪めた。

「……でも……私が何をしても……良いんじゃない……?」

 それは、真田流の挑発行為。
 当然の如く、若宇の顔が高揚する。

「なにー!?」
「貴方……言ったでしょ……くれるって……」
「……………………はっ!?」

 それは転校初日の事だろう。
 確かに若宇は言った。
 アレはあたしの物だけど、くれてやらん事も無い、と。
 いや、俺の所有権は、俺に在るんだけどな。
 ……違うか。
 俺の所有権は多分、若宇に在るんだろう。
 それが石川流ということだ。
 なんだか本当に、涙目になってきた気がする。

「ででで、でもっ! まだあげてないっ! まだアレは、あたしのもんだっ!」
「くれるって言った……のに……」
「アレはあたしのだっ! そーゆー宿命に生まれてるんだよっ!」
「……………………しゅく……………………めい……………………?」

 緩んでいた真田の表情が一変した。
 宿命。
 真田がこの言葉に何を思うか、俺には解らない。
 だから真田が、何に怒っているのかも。

「宿命なんて……そんな簡単に……使う言葉じゃない……」

 真田の身体から、闘気が溢れ出す。
 気配を掴ませないのが忍者の基本だが、どうやら真田は基本が出来ていないらしい。
 そしてそれは、馬鹿女も一緒である。
 真田の気迫に……。

「ふーん。ま、そりゃゆっきーの考え方だ。アタシは使うよ。ばんばん」

 若宇も呼応する。
 こりゃ……不味いかな。
 腰に結わえられていた、猫爪びょうそう熊爪ゆうそうを確認する。
 俺の双爪は健在だ。
 ……いや、違う。
 俺は手を出しては成らないのだ。
 なぜなら俺は、露払いだから。
 もうとっくに払われた後だし。

「……宿命……その重さ……知らないくせに……」
「言葉すら怖がってるよーじゃ、まだまだ♪」

 若宇の歪んだ笑顔に、真田の表情が変わった。
 一瞬にして、透明な気迫。
 戦闘モードなんだろう。
 やっぱり、基本は出来ていたらしい。
 出来てないのは……若宇だけだ。

「さあこい、ゆっきー!」

 若宇の叫びに、真田は応える事無く。
 スカートを翻し、その身を空中に躍らせた。
 地上、約3m。
 だが一般人なら兎も角、俺たち忍者が驚くような跳躍ではない。
 若宇が対応できない筈もな……なに?

「にやにや♪」

 地上で馬鹿面を浮かべている。
 あの……馬鹿。
 迎え撃つつもりなんだろう。
 若宇の悪い癖だ。
 初めての相手、初めての技。
 迫り来る脅威が未知であるほど、若宇はテンションを上げていく。
 好奇心が押さえきれないのだ。
 好奇心が闇を殺すことは、知っているはずなのに。

「……」

 真田もそれが解ったんだろう。
 上昇力と重力がつりあった、跳躍のいただきで。

「……ふっ……」

 若宇の隙を確信した。
 だが、それじゃ駄目だ、真田。
 それじゃ若宇の思うつぼ。
 ただの『陰忍比べ』に持ち込まれちまう。

「……!」

 一直線に、足から急降下する真田。
 若宇も気迫を込めて、構えを取った。
 両拳を軽く解き、両膝にためを作った独特の構え。
 この世の中にどれだけ忍者の流派があるか知らんが、固定された構えを持っているのは、若宇一人だろう。
 攻撃を受け流すのには、『構え』は邪魔になるからだ。
 最初から相手に目標を、提供しているようなもんだからな。
 だがそれでも若宇は。

「だぁっ!」

 構えを取る。
 それは、攻撃のため。
 忍者は基本的に、戦闘職種ではない。
 戦闘よりも、情報が大事なのだ。
 忍者が戦う時は、暗殺が基本。
 俺はその特殊な任務から、戦闘主体に成らざるを得ないのだが……。
 若宇は、『百地』である。
 数々の忍軍を纏め、暗部を影から統べる『百地』には、戦う必要が発生しない。
 にも関わらず若宇は、構えを取る。

「……!」

 真田が蹴りを放つ。
 あれが真田のスタイルじゃない事を、俺は知っている。
 故にフェイントな筈。

「しっ!」

 そんな事を知らない馬鹿女は、まんまと乗せられた。
 右手で真田の蹴りを捌きつつ、身体を捻って真田の腹に左掌底を添えた。
 あのまま地面に叩きつけるつもりなんだろう。

「……」

 それをさせる、真田じゃない。

「お……?」

 空中で真田の白い手が、若宇の左手に絡みつく。
 優しく誘うように。
 若宇の掌底が腹部から離れた瞬間、もう一方の白い手が若宇の首に絡みつく。
 自分の全体重を地面に叩きつけ、受身を取る形になった。
 真田が、だ。

「ぎゃっ!?」

 絡み取られたままの若宇の額が、地面に打ち付けられる。
 あれは……痛い。
 地面に額をこすりつけて、のた打ち回る若宇。
 それが作られた隙であることは、真田も承知済みのはずだ。
 にも関わらず。

「……!」

 無言で真田が、若宇の背後に飛び掛る。
 若宇の両手首を背中に捻り上げ、太腿を抱え込む。

「がががっ!?」

 一瞬若宇の背中に乗った真田だったが、身体を四分の一ほど回転させた。
 若宇の膝が地面に付いた瞬間、完璧に極枝が決まる。
 両手を決められたまま、弓形に反る若宇。
 手首と腰。
 両膝が接地しているので、逃げる事も出来ない。
 あれは俺が食らった、『弓剋ゆかつ』の変形か。
 だがな真田。
 俺には有効でも、若宇には……。

「あだだだだっ!?」

 ……………………効いてる、な。
 若宇は師匠の娘である。
 師匠の教えは、ストレッチ系の体躯が8割を占めている。
 故に若宇も、身体が柔らかいと思っていたのだが。

「いかに……関節が柔らかくても……可動範囲は……超えられない……」

 なるほど。
 真田の解説で解った気がする。
 若宇の腰は、斜め下方向に引っ張られていた。
 人間の腰関節は、あっちには動かないもんな。
 納得。

「……納得……すんなーっ!」

 若宇の身体に、力が宿る。
 逃げられないはずの極枝を、力尽くで外そうってんだろう。
 瞬発力馬鹿め。
 それにしても……この距離で、俺の表情が解ったのか。
 俺のことなんて気にしてる場合じゃあねえだろ。

「……」

 全身が硬直する若宇。
 それが解ったのか、真田が何の躊躇も無く腕を外した。
 一旦極めかかった技に、固執しないのか。
 さすが一流だ。

「くっ!」

 若宇が立ち上がろうとした瞬間、真田の手刀が煌いた。
 片膝を付いたまま、若宇の脚を刈ったのだ。
 若宇も白、真田も白、か。
 …………いやいや。

「ぶっ!?」

 情けなく仰向けに倒れる若宇。
 その若宇の腕を取って、真田が立ち上がった。
 腕を自分の足に絡めるように、踵で一回転。
 若宇の腕が捻り上げられる。

「……んなっ!」

 若宇もそれに抵抗して、一回転する。
 それが真田の布石だとも知らずに。

「……!」
「……………………え?」

 いつの間にか若宇の両手は、背中に回されていた。
 真田の背中に、自分の背中にだ。
 両腕をクロスさせるように、背中併せに固定されている。
 そのまま真田が、身体を反らせた。

「……」
「っ!?」

 地面に打ち付けられる、若宇の後頭部。
 両腕が極められているので、受身が取れていない。
 俺なら取れたが、不勉強な若宇では無理だろう。
 だが、まだだ。

「……しっ!」
「いだだだだだだっ!?」

 真田の身体が、再び反り返る。
 頭を支点にした、見事なブリッジ。
 若宇の顔が、地面にめり込んだ。
 そりゃそうだろう。
 若宇の頭を押さえているのは、真田の頭なのだ。
 交差した両腕を、まるで羽のように捻り上げられ、地面に突っ伏したまま呻く若宇。
 その馬鹿の上で真田は……。

「……真田流……細波さざなみ………………」

 自分の繰り出した技の名称を、誰に聞かせるとも無く伝えてきた。
 しかし……解せんな。
 何故真田ほどの忍者が、自分の技を伝えるのだろう?
 あの食い込んだ白い下着は、痛くないのだろうか?
 ……………………いやいやいや。
 だってそれは、しょうがないと思うんだ。
 どれだけ緊迫した場面とは言え、男が女性の下着等に着目してしまうのは。
 その一瞬が生死を分かつと知っていても。
 いや知っているからこそ、着目してしまうのだろう。
 でなければ、うちの千代女ちよめ衆が生き残れる筈が無い。
『女』を武器にする、下に恐ろしき集団。
 下着や素肌を見せる事が、まるで呼吸するかの如く自然に身についているのだ。
 その恐ろしさは、俺が一番良く知っている。

「だあっ!」

 俺が下着と生死の因果関係を解き明かそうとしている内にも、若宇は奮闘していたらしい。
 つま先で地面を蹴り、身体を斜めに後方回転。
 真っ直ぐ回転したら、首の骨が折れるからな。

「……」

 まただ。
 己の技に固執する事無く、真田が戒めを解き放った。
 もう既に、次手が組み立ててあるんだろう。
 極枝の使い手は、一撃で仕留めようとしない。
 蛇が獲物に絡みつくように、じわりじわりと締め上げていくのだ。
 どちらかと言うと悪役のイメージなのだが……。
 真田ほどの美人が繰り出すと、それはそれで絵になる。
 戦ってる同士が両方ともスカートなんかだと、かなり絵になる。

「なめんなっ!」

 ましてや相手が、若宇と成ると。
 若宇は馬鹿女だが、スタイル的には申し分ない。
 うら若き肉体が絡み合う。
 ……………………。
 らみの言葉が蘇る。
 確かに最近、師匠と透に毒されて来ているかもしれない。

「だっ!?」
「……………………」

 そうこう考えているうちにも、また若宇が絡み取られている。
 不用意に繰り出した拳を取られ、一本背負いの体勢に持ち込まれたのだ。
 それをかわそうと、腰を落とした瞬間。
 躊躇無く腕を放され、後ろのめりになる。
 しゃがんだ真田に脚を払われ、また昏倒したってわけだ。

「くっ!」
「……」

 正面からの拳をかわそうと、身を捻る若宇。
 もうそろそろ学習した方が良いと思うが、それは真田の布石だっていうの。
 横を向いた瞬間、首と太腿を取られる。
 膝を腰に当てられたまま、また弓形だ。
 あの『弓剋ゆかつ』という技の、別バリエーションなのだろう。
 おそらく弓剋ゆかつという極枝は、背骨を責める技の総称なのかもしれない。
 固定するための部位は違っても、蓄積するダメージ箇所は一緒だ。
 蹴りに上段も中段も無いのと一緒。
『蹴り』は、何処を蹴っても蹴りである。

「ぐうっ!」
「……」

 若宇が力を込めた瞬間、また真田は解き放った。
 致命技では無いと知っているからこそ、執着しない。
 それでも、ダメージは溜まっていく。

「……くうっ……ふぅっ……」
「……………………」

 再び対峙する二人。
 だが明らかに違う点がある。
 若宇は肩で息をしているが、真田は平常そのままだ。
 あれが極枝の、本当の怖さ。
 関節じゃなく、体力や心を絡め取る。
 だが、このまま折れる若宇じゃない。
 肩で息をしながらも、唇を歪めた。

「よーやく……読めた」
「……………………」
「真田流……まさか、極枝の使い手だったとわなー……」
「……………………」

 もうちょっと早く気づけよ。

「だけど……なんで極枝なんだー?」
「……?」
「仮にも忍者と名乗るなら……極枝で極めた瞬間、苦無を突き立てる……くらいのことは、すべきだろー」
「……………………」

 そう。
 俺もその点が、気になっていた。
 確かに極枝は、忍者にとって重要な陰忍だ。
 捕縛すべき対象を、殺すわけにはいかないからな。
 だが真田の戦闘術は、捕縛がメインの組み立てじゃない。
 敵を無力化するのを目的としているような。
 ある意味、忍者らしくない戦闘の塊なのだ。

「それは……手加減しているから……ね……」
「なにー!?」

 ……………………。

「殺すわけには……いかないから……時間をかけて……絡め取る……それが私の陰忍……真田だから……」
「忍者が戦闘で殺さないで、どーすんだよっ!」
「それは……貴方も……一緒でしょ……。百地若宇……いいえ、伊賀崎大河の娘なら……」
「……………………」

 ……えと。
 良く解らんが。
 つまり、俺も手加減されたって事か。
 プライド傷つくな。

「……………………そっかー……そーゆーことかー……」
「そういう……ことね……」

 若宇が腰に手を当てた。
 真田の身体が、緊張し始めた。
 なんだ?

「……ゆっきー……」
「……?」
「お前……勘違いしてるぞー……」
「……え?」

 若宇がスカートの内側に手を入れ、何かを取り出した。
 薄い皮で出来ているらしい……あれは、手甲?
 黒く光る手甲を二つ取り出し、装着し始めた。
 手首に、輪っか状のパーツが見て取れる。
 そのリングを、軽く引き絞った。
 見て解るくらい、手甲が伸縮し、若宇の腕にフィットする。
 両手の裏拳から肘までを覆う、黒い手甲。
 アイツが、あんな装備を?

「殺さない。確かに、それが掟かも知れない」
「……ええ……」

 若宇の……あんな表情は、見た事がなかった。
 凛とした眼差し。
 初めて見る若宇。

「だけどなー……」

 若宇が動いた!
 身体が霞む速度で。
 俺が……この俺の動体視が、追いつかない!?

「……!?」

 真田が両腕をクロスして、若宇の突進を迎え撃つ。
 防御じゃない。
 迎撃、だ。
 だが……。

「……ぐっ!?」

 あの真田の速度を上回る、若宇の拳。
 黒い手甲が、真田の頬に突き刺さった。
 回転しながら、吹き飛ぶ真田。
 自ら跳んで、なんとか致命衝だけは逃がせたらしい。
 撃つ若宇も若宇なら、耐える真田も真田だ。

「牙は折る。それが楯……あたしの……あたし達の戦いだー!」

 若宇が拳を構えた。
 まるで真田を誘うように。

「…………」

 打撃にうつむいていた真田が……。

「……そうね……忘れてたわ……」

 顔を上げて、微笑んだ。
 そのまま笑顔で、自らスカートをたくし上げる。
 真っ白な太腿。
 その太腿には……小さな小袋が、革のベルトで括りつけられていた。

「真田流……妖術……雪舟ゆきふね……」

 真田が小袋から、一掴みの羽を取り出す。
 白い羽。
 あれが真田の、『対若宇』秘密兵器だ。
 空中に浮かんだ羽で、自重の消失した己の体躯を変化させる。
 その動きは、まるで雀のように。
 俺も食らった。

「……超える……この一撃で……若宇……あの人の娘……百地若宇を……超えてみせる……」
「無理無理」

 若宇が構えを取った。
 両腕に装着された、対なる手甲。

「この手甲をはめた時。それはあたしが無敵になるとゆー証」
「……………………」

 ……………………。
 そうなのか?
 手甲をはめた位で、無敵になれるものなのだろうか?
 忍者の装備や陰忍は基本的に、一発芸に近いものがあると思う。
 最初に発動した段階で、意外性を武器に敵を打ち倒す。
 俺の石川流抜刀術も、そんな側面がある事は否定出来ない。
 初見が命なのだ。
 もしかしたらあの手甲にも、未だ見ぬギミックが装備されている可能性が……。

「それが……伊賀崎大河から受け継いだ……手甲なのね……」
「……知ってるん?」
「知ってるわ……。右腕側に装備されたのが、『みさご』。左手側が『からす』。基本的な製造方法は同じ。圧縮した獣革の二重構造で、間には鉄糸が張り巡らされている。各重量はおおよそ、11kg。手首のリングを捻る事によって、指の間から鉤爪が突出する。通常は登攀用に用いるが、伊賀崎流では鉤爪を研ぎ澄ませ、暗器として使用する」
「……………………」

 若宇の瞳が、びっくりしていた。
 無論俺も、真田の解説に驚いている。
 初見どころか、製造方法まで熟知されてるじゃあねえか。
 一瞬言葉を失った若宇だったが、俺の方を向いて叫んだ。

「なー、ペケぇっ!」
「はっ」
「娘の秘密を……己の流派の秘密を事細かにバラす親って、どー思うー?」

 おや?
 良く解ったな、若宇。
 お前の情報を伝えたのが、実の親だって事を。

「解りませぬ」

 一応そう言ってみるが、本当は解っている。
 面白いから。
 それだけの理由で師匠は、真田に伝えているんだろう。

「ま、いーや」

 気を取り直したのか、脱力していた若宇が、再び構えを取った。
 両手を軽く開いて、右膝に溜めを取る、独特の構え。

「鶚と鴉の事を知っててもさー。その重さまでは、しらねーだろー」
「…………」

 重さ?
 真田の解説が正しければ、約11kgな筈。
 とんでもなく重いな、それは。
 何が入ってれば、そんなに重くなるのだろうか?

「貴方も……宿命って言葉の重みを……知らない……」
「知ってるよー……………………嫌って程なーっ!」

 ……?
 二人の口上の意味に気を取られてしまい、若宇の跳躍を見逃してしまった。
 気づいたときにはもう、真田の眼前に迫っている。
 ステップインして半回転。
 若宇の裏拳が、真田の顔を襲った。

「!」
「!?」

 真田が身体を沈めた。
 若宇の右手甲―――鶚が空を切る。

「っ!」

 まだだ。
 もう半回転して、身体を沈めながらの拳打。
 脚を狙った裏拳だ。
 忍者らしからぬ……まるで、格闘家の様な体躯。

「しっ!」

 真田が空中に身を躍らせた。
 沈み込んだのは、若宇の打撃をかわす意味もあったのだろうが、跳躍に必要な力を溜める行為でもあったのだろう。
 あっという間に、若宇の頭上に浮かんでいた。

「甘いーっ!」

 若宇も沈み込ませた身体を、空中に投げ出した。
 真田に、空中戦を挑むつもりか。

「……!」

 その真田が……空中で軌道を変えた。
 何かを蹴る仕草。
 真田の身体が、水平に弾けた。

「にぃっ!?」

 驚いている若宇には、足元に浮遊していた羽は見えていないだろう。
 真田の妖術。
 極限まで消失させた自重を、たった一枚の羽で方向転換させる。

「! ……!」

 真田の気合が弾ける度、軌道が鋭角に変化した。
 たった二回の跳躍で、若宇の後ろに回りこむ。

「ふっ!」

 真田の白い指が、若宇の脇腹に添えられた。
 その瞬間、若宇の表情が歪む。
 あれは……『志水しみず』。
 服を瞬時に引き絞る事によって、身体の内部にダメージを与える陰忍だ。
 ただの圧迫と侮るなかれ。
 胸骨が歪むほどの圧力は、食らった者にしか解らない苦しみを生む。
 しかもあれは、ただのつなぎ技だ。
 次手で極めるための伏線。

「けぇぃ!」

 ……真田?
 怪鳥のごとき発声が、まさか真田のものなのか?
 多分そうなんだろう。
 その証拠に、真田が若宇の身体の上の裏で回転する。
 太腿で若宇の両腕を抱え込んだ。
 古柔術で言うところの、『両羽固め』と『裏肩固め』をミックスしたような極枝。
 あのまま地上に叩きつけるのか?
 一瞬。
 一瞬だけ、俺の身体が反応する。
 幼い頃から義務付けられた、守護の任。
 だが……駄目だ。
 俺が飛び出すわけには行かない。
 間に合わなそうだし。

「……ふざ……けんにゃっ!」

 にゃ?
 自分の台詞を噛んだ若宇を見る度、ああ師匠の娘だなあって思う。
 頭の中に浮かんだ台詞が、身体を追い越してしまうんだよな。

「……!?」

 若宇が、強引に真田を引き剥がした。
 腕の瞬発力だけで、真田の戒めを解いたのだ。
 極枝を得意とする真田の握力も、相当なものだろうに。
 だがまだだ。
 真田は空中で、若宇の背中に乗っている。

「……すっ!」

 真田の細い腕が、若宇の首に絡みついた。
 腕の拘束は諦めても、背中に回った優位は変わらない。
 若宇が……地上に叩きつけられる。

「だぁっ!」

 若宇の拳が……地面に突き刺さった。
 だがそんな事で、二人分の体重は相殺されない。
 でも……ほんの一瞬。
 ほんの一瞬、拳のインパクトで真田の拘束が緩んだ。
 打ち込んだ拳を内側に丸め込むようにして、衝撃を巻き込む。
 拳、肘、肩。
 そして背中。

「……くっ!?」

 背中に乗っていた真田が、地面に叩きつけられた。
 二人分の体重を、横殴りに受けたのだ。
 あれは痛い。

「しっ!」

 絡み合いながら落ちた二人。
 先に動いたのは、真田だった。
 距離を取るべく、後ろ飛びする。

「……しゃっぁ!」

 追う様に、若宇も跳んだ。
 真田は飛び、若宇は跳ぶ。
 跳躍力は、真田の方が上なのだろうが……。
 反応速度は、若宇。

「……くぅっ……」

 真田の陰忍。
 飛び込んでの極枝は、ある程度の距離が無いと仕掛けられない。
 それが若宇にも解っているからこそ、接近戦を挑んでいる。
 本来極枝とは、密着距離戦闘なんだけどな。
 真田の場合、宙を翔ける事によって威力を倍増させている。
 その間合いが取れないんだろう。

「……ふっ!」

 腕を縮めたかと思うと、何も無い空間に掌底を打つ。
 その反動―――反動?―――で、真田が横っ飛びした。
 微妙な弧を描いて、空中を弾けていく。
 真田の掌底の先には、一枚の白い羽。
 腕でもあの空中疾走が出来るのか。
 まさに妖術だな、こりゃあ。

「!」

 それを追って、若宇が地面を蹴った。
 あくまでも真田との距離を詰めるつもりなんだろう。
 若宇の戦闘も、近接距離が基本だからな。
 その若宇が……。
 若宇が、空中で仰け反った。

「ぐぎゃっ!?」

 何だ!?
 投げ物か……いや。
 俺の目には、真田が何か投げたようには見えなかった。
 しかし事実、若宇は頭に何か受けて、脚から滑り込んだ。
 短いスカートが、腰の上までめくれて行く。
 全然、色っぽくねえ。
 公園の滑り台でめくれた、幼少女のスカートみたいだ。
 違うとすれば……。
 幼女が穿いているのはかぼちゃパンツと決まっているが、若宇が装着しているのは白い下着という事だ。
 勿論、俺が洗って畳んだ一品。

「……………………」

 額を押さえながら、若宇が立ち上がった。
 おでこのど真ん中が、赤く腫れている。
 何だ?
 何の衝撃で、若宇は仰け反ったんだ?
 これも真田の妖術……。

「……?」

 じゃないみたいだな。
 突然止んだ若宇の追撃が、よほど意外だったんだろう。
 着地した真田にも、なにが起きたのか解っていない。
 そんな表情を浮かべていた。

「……………………いてー……」

 額を押さえて呟く若宇。
 しかしその表情は……。
 悪戯っこの、それに戻っていた。
 あの表情を浮かべた若宇は、やっかいだ。
 自分を取り戻している。

「……わかったぞ、ゆっきー」
「……なにが……?」
「お前の陰忍。そのからくりをだっ!」

 ……………………。
 はあっ?

「……………………」
「ちなみに今の効果音は、『ばばーんっ!』だー!」

 聞いてねえし。

「……効果音は……いらない……」

 そういう突っ込みも有りか、真田。

「いいか、ゆっきー。最初あたしは、その羽で自重を消して跳躍しているんだと思っていた」
「……………………」

 そうだ。
 俺もそう思っている。
 極限までコントロールされた体重移動と、羽を蹴る反作用を利用しての空中疾走。
 それが真田の陰忍……妖術なんじゃないのか?
 馬鹿げた話だが、そもそも忍者は、ことわりの中に生きていない。
 意外なのは、若宇がそれを見切っていたという事だ。
 馬鹿のくせに、洞察力は鋭い。

「……そうよ……それが私の陰忍……真田流妖術、『雪舟』……」
「うそつけー」

 ……。
 はっ?

「どんだけ体躯に優れた忍者であろうとも、空中に浮いた羽程度の負荷で、自重を消し去り身体を弾く。そんなの無理無理♪」
「……………………」

 無理って……実際に、それを行ってるんじゃないのか、真田は。

「だいたい、真田流にそんな陰忍、伝わってないもんなー♪」
「…………………………」

 そうなのか?
 いや、それよりも……何故、そのことを若宇が知ってるんだ?

「なら答えは一つだー。ゆっきー……お前、空中に羽根を固定してるだろー!」
「!?」

 な、何言い出すんだ、この馬鹿女。
 聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるぜ。
 だいたいどうやって、なにもない空中に羽を固定……。

「……どうして……解ったの……?」

 認めんのかよっ!
 羽を……空中に……固定……?

「時々陰忍は、理を超えたように見えるけどよー。本当は超える事なんて、ありえねーんだよ」
「……………………」
「ゆっきーの妖術は、明らかに超え過ぎだっつーの。そーゆーのを無理矢理納得するように、あたしは出来てねーんだよっ!」
「……………………」

 無理矢理納得した俺の立場って一体……。

「最初からおかしいなーって思ってたんだけどよー。核心が得られたのは、ついさっきだー」
「……さっき……?」
「あたしのどたまに当たった羽。礫なんかとは違う衝撃があった。まるで……走り回っていたら気づかずに、鉄棒に頭ぶつけたみたいな感じだったんだぞー」
「……注意散漫、ね……」
「い、いーんだよっ! おかげでゆっきーのからくりが読めたんだからよー!」
「……………………」
「どーやってかは解らないけどさー。いや解るけど。いや、方法は解らないけど、理由は解るってゆーかー」
「……どっちなの……?」
「どっちでもいーんだよっ! ゆっきー……お前、異能力者だろ……」
「!?」

 ……………………。
 い、いのう……?
 そんな単語、聞いたことねえぞ。

「この世界には時々例外的に、理を越えちゃう奴が出てくるんだよなー。そーゆー人間、二人ほど知ってるし」
「…………………………」
「陰忍じゃなく、能力。それが真田流妖術の正体だー!」

 なんとなく、納得がいかない。
 それだったら、羽を蹴って空中疾走してくれたほうが、まだ納得行くっていうか。
 でも……ああっ……納得行くような、行かないような……。

「…………………………そうよ……………………」

 うつむいていた真田が、そっと呟いた。
 看破された悔しさなどは、微塵も見せない。
 いやむしろ……喜び?

「……昔から……どうしてか解らないけど……私は、そういうことが出来るの……」
「まー。そーゆー奴も、居るかもなー」
「……ふふっ……私の力を見破ったのも……そう言ってくれたのも……二人目、よ……」
「酔狂な奴も、居るもんだー」
「そうね……でも、その人のおかげで……私はこの力を使う事が出来る……。……昔から忌んだ……この力を使って……陰忍と……真田流と組み合わせて……私は完成に近づかなくてはいけない……」
「…………それって宿命っていわねーか…………?」
「そうね……宿命なのかもしれない……。父上の死を……母上の死を……踏み越えて尚……私は……」
「……………………」

 ……………。

「……楯岡に……届かなくてはいけない……」

 ……………………たておか……?
 なんだ、そりゃ?
 ……いや待てよ……どこかで聞いた覚えが……。

「父上も母上も、楯岡に届く前に……目の当たりにする前に、道阿弥の手にかかった……でも……道阿弥が悪いんじゃない……届かなかった……父上が……真田が弱かっただけ……」
「……………………」
「……私が……弱かっただけ……」
「……ゆっきー……」
「だから私は、届かなくては成らない……忌むべきこの力を使っても……。……一人で泣いてた……あの頃に戻るわけには行かない……手を差し伸べてくれた……あの人のためにも……」

 真田の両親は、京都大戦で殲滅された、道阿弥衆の手に掛かったと言う。
 その手に落ちる事無く、理念を貫いて。
 それと若宇に挑まなくてはいけない理由が、俺には結び付けられない。
 だが……。

「……そっかー……」

 若宇には解っているのだろう。
 若宇が、両腕を広げた。
 まるで、何かを……真田を誘うように。

「なら、来い、ゆっきー! あたしも届かなくちゃいけない! おとーちゃんに……楯岡にっ!」
「……」
「だから……だから、負けねーっ!」
「……ええ……負けない……」

 二人が笑いあった。
 隻眼が。
 馬鹿面が。
 まるで昔からの友達のように、笑いあっていた。





end



●感想をお願いいたします●(クリックするとフォームへ移動します)


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送