「うぉぉぉぉ!」
キィィィィィン………。
朋ちゃんが俺の投擲した
夕暮れの森に、金属音と青い閃光が走る。
俺も今の
戦いの合図なのだ。
だから、そんなに得意満面な顔すんなよ、朋ちゃん♪
「ど、どうした『楯岡』! その程度……」
朋ちゃんの恰好良い台詞の間に、懐に潜りこみ……。
右拳に装着した
「ぐぅ……」
朋ちゃんが
戦闘の最中に、余計な口を聞いているからだ。
一瞬動きの止まった朋ちゃんに対して、左手で抜刀した
「うぉぉぉ!?」
両手で持った
一瞬
「ぐぁ!」
朋ちゃんがとっさに足を引いたので、俺の
だが、右足首の肉をごっそりと削り取って、どす黒い鮮血を地面に撒き散らす。
後から
結構高いんだから。
「……………クッ……」
足の痛みで踏ん張りの効かない朋ちゃん。
俺は容赦なく、その引きつった顔に
「はぁぁぁ!」
「セヤ!」
巨大な
「!?」
朋ちゃんがなんとか
そのまま膝を地面に付きながら、真の攻撃!!!
同時に左手で
「はぁぁぁ!」
お、身が軽いな、朋ちゃん。
朋ちゃんは投げられながらも、空中で一回転しながら遥か後方に着地した。
………が、しかし。
「ぐっ……」
俺を睨みながらも膝を付いた。
自分の足首を掴んで、止血してるよーだ。
そんなに大した深さの傷じゃねーだろ、朋ちゃん?
「………流石『楯岡』だ。エグい攻撃しやがる………」
「どーもありがと♪」
苦々しく呟いた朋ちゃんに対して、心からお礼など言ってみる。
無論、
アキレス腱の切断までは出来なかったようだが、足の甲の骨は砕けたな。
『楯岡』流、
しゃがんだ瞬間、自分の背後が無防備になるのだが……それを隙とも思わせないくらいの伏線がポイント
だ。
今回俺は、拳、そして折りたたんでの肘と、上段に攻撃を集中して伏線を張ってみた。
理想としては、一撃で決まる技ってのが一番良いのであろうが……。
相手や自分のレベルが高まれば高まるほど、そうはいかないのが実戦だ。
目晦ましや、細かいフェイント。
そんなものを紡いで行き、最終的に目的のダメージを与える。
マンガやスポーツなどはどうだか知らねーが、『楯岡』の戦いは積み重ねの技法だ。
基本的に足を狙うのも、『楯岡』の基本戦術。
動きを鈍らせ、徐々にダメージを重ねて行く。
破壊力の高い技は、隙もでかいからな。
「さて……もう一本いくか?」
先ほどの朋ちゃんと同じ台詞。
違うのは……引きつった朋ちゃんの顔。
「………ああ。そうだな」
お、強がってるね。
忍者ってのは、そうでなくっちゃな。
本当は………。
「………今、生まれて……初めて……ここから逃げ出したいと思ってる……」
だろうな。
「今まで幾人もの敵を屠ってきた。藤林の命に逆らうものは、全て叩き潰してきた。『楯岡』と戦うのも、本当
に楽しみにしてたんだぜ……」
『叩き切って来た』じゃない所が、本気でコワイ♪
比喩じゃなくて、その
ぷちって。
「それが……今は逃げたくてしょうがない……」
逃げても良いのに。
逃がさないけど♪
「そうやって藤林の勢力を拡大してきたんだな、朋ちゃん♪」
「………そうさ。だが、勢力拡大が目的じゃねぇ」
「………戦う事自体が、目的……か」
俺の台詞に、朋ちゃんが頷いた。
やっぱり病気だわ、朋ちゃん。
もっとのんびり生きていけば良いのに。
休みに日には、ゲーム三昧だったりさ♪
………そーいえば、俺のゲーム。
『仕事』に行く前に買ったゲーム機本体……。
5年も経ったから、既に旧機種じゃねーか……。
せめて、新機種と互換性、有れば良いなぁ……。
………余所事考えるのは、後からにしよう。
「………だから逃げ出さん……怖いのに……興奮してるんだ……お前にもそう言う事……有るか?」
「あるさ」
静流の乳を揉んでる時とかな。
「そうか……有るか」
「ああ」
静流の乳を揉み倒してる時とかな。
「………じゃあ……もう一本行くぞ、『楯岡』!」
「承知!」
第八話 『パニックトーク』
下らない事を考えてるよゆーは無さそうだ。
朋ちゃんの戦闘意識は、まだまだ健在らしい。
「うぉぉぉりゃぁぁぁぁ!」
朋ちゃんは自分の頭上で
無論、それをボーっと眺めている俺ではない。
朋ちゃんとの距離は、約15m。
一足飛びに詰められる距離!
が、一瞬朋ちゃんの攻撃モーションの方が早かった。
「せぇぇぇ!」
頭上で振りまわした
さっきの追尾弾か?
ぶぉぉん……。
豪快に風を叩き割りながら、
右に避けて………なにぃ!?
不規則な動きをしながら迫り来る
好意的に取れば、だ。
なるほど、『大鹿』ってネーミングも納得だわ、こりゃ………って、納得してる場合じゃねーよ!
恐らく
勿論、冷静に分析してる場合でもない。
「セッ!」
飛来物を
追尾してくる可能性も有る。
本当は最小限度の動きで
取ったほうが、良い気がしたのだ。
そしてそれは正解だったらしい。
「あぁぁぁ!!!」
朋ちゃんの気合いと共に、
無論、おかしな回転をしたまま。
物理法則を無視した技だ。
人のことは言えねーけど。
「はぁっ!」
今回は拳でガードするわけにも行くまい。
あれだけ不規則な回転を掛けられた
そんな技量のない俺は……取り敢えず逃げちゃえ♪
つっても、ただ逃げるわけじゃない。
朋ちゃん目掛けて、一直線!
「あぁぁぁ!!!」
………ん?
朋ちゃんの気合いと共に、背後から殺気?
まだ追尾してきやがる!
なんてしつこい技だ。
俺の横には、
己の破壊衝動の軌道を残すかのように……。
忍刀でも持っていれば、あの鋼線切断にチャレンジする気も起きるのだが、今の装備じゃ、やる気も起き
ねー。
背後から迫る
振り向きながら……
気持ち的には、寒い地方の盆踊りの達人みたいなノリで。
左上から右下に。
「うっ!?」
さぞかし驚いたのだろう。
朋ちゃんが目を丸くして、地面に突き刺さった
さらに半回転しながら、一足飛びで間合いを!!!
朋ちゃんとの距離を詰め、
朋ちゃんは外腕で俺の拳を弾きながら、いやらしい笑いを浮かべた。
「……甘いな、『楯岡』!」
一瞬頬が膨らんだかと思うと……。
プシュ!
炭酸ジュースのキャップを空けたような音がして、口内から黒くて細いものが飛び出してきた。
含み針か……。
「……」
甘いのは……お前の方だよ!
弾かれた
そのままの状態で回ったのでは、ただ単に含み針が後頭部に刺さるだけなので、身体を沈めこむ。
「!?」
膝を折りたたんで含み針を
「ぐぁ!?」
朋ちゃんが足を引いたので、膝を砕くまでは行かなかったが……。
内側に鋼線の走った
後からしっかり洗わなくちゃな。
「せぇぇ!」
洗濯の意志を固めつつ、伸び上がって朋ちゃんの左腕を取る。
合気を込め、腕一本で……地面に叩き付ける!
「ぐぁ!」
受身を取れない朋ちゃんがうめいた。
と同時に、朋ちゃんの上腕部から鮮血が噴出す。
あっ……
ゴメンね、朋ちゃん♪
痛かった?
地面に寝転んで悶絶してる朋ちゃんの顔面を、謝罪の気持ちを充分に込めて蹴り付ける!
「ずぁ!」
ちっ!
掠っただけか。
しかも地面を転がりながら、
両手で
本来なら
あれだけ警戒されてれば、着弾させるのは無理だろう。
「はぁっ、はぁっ……」
「大分お疲れのようだな、朋ちゃん♪」
「ふん!」
朋ちゃんは俺の質問に答えずに、片手で手鼻をかんだ。
ねっとりとした血液が、地面に撒き散らされる。
あ、俺のつま先、鼻の先っちょに当ったのね。
もしかすると鼻骨くらいは砕いちゃったかもね♪
呼吸が幾分楽になったらしい。
朋ちゃんの目に、冷静さが甦る。
「………一筋縄では行かないな、やっぱり」
鼻の下を袖で拭いながら、朋ちゃんが呟く。
「お前は武器のバランスが悪いんだよ。長距離用の武器だけだから、間合いを詰められたときにオタオタし
てるじゃねーか」
有利なのを良い事に、いきなり説教モード。
勿論、出血を促進させる時間を取っている意味合いも有る。
「そのための含み針なんだがな」
「アホか。その程度の武装、子供だって思いつくっつーの」
忍者の子供ならな。
「御教授、ありがたいね……」
「覚えといて、あの世で復習しな」
殺しはしないのが『楯岡』だが、結果的に死んでしまうのはしょうがない。
上腕部からの出血と相互して、輸血が必要な身体になるのも後ちょっとだろう。
後は俺と朋ちゃんの血液型が違う事を祈る。
合ってても輸血なんかしてやんねーけど。
「その前に………もう一本!!!」
まだやんのかよ。
いい加減、止め刺してやりたくなるぜ。
イライラする………。
さっきから、あからさまに手加減されているのが解らんかね?
別に余裕で手加減してるわけじゃない。
『楯岡』だから。
俺は『楯岡』だから、相手を殺す事は出来ないのだ。
それがいくら『的』とはいえ。
殺すつもりなら、さっきから何回もチャンスは有った。
が………しかし………俺は『牙を折る』ことが目的。
敵の動きを鈍らせてからではないと、正確に神経や腱に
いつかこの戦い方が、俺の首を絞める気がしてならねー。
が、それを可能にするのが『楯岡』なのだ。
つーか、可能にしなければならない。
『楯岡』だから。
「こい、朋ちゃん!」
「おお!!!」
朋ちゃんが地面に突き刺さったままの
地面の表皮が剥がれ、大地の破片が宙に舞う。
馬鹿の一つ覚えのよーに追尾弾かとも思ったが、今度の一本は違ったらしい。
俺に接近戦を挑むとは……良い度胸だ。
そして……あの長物で挑んでくるとは……アホだ。
「かぁぁぁ!」
朋ちゃんが
足の怪我でつまづかないかな〜……なんて期待していたので、ちょっと反応が遅れてしまった。
つまずいた瞬間、
「がぁ!」
テコの原理で重心移動した柄が、俺の腹部に襲いかかる。
そんなものを食らう俺ではないので……。
「つぁ!」
横飛びしながら、朋ちゃんのサイドに回りこむ。
ベルトに差してあった陰袋から………別に、金玉のことじゃねー……
太くてたくましい、抱かれたい男NO1の肩に
「りゃぁぁぁぁ!」
なに!?
腕を交差するようにして、
と、同時に
防御から攻撃までの移り変わりが、異常に速い。
人間離れした朋ちゃんの筋力が成せる技だ。
半円運動から直線運動への変換とは……。
が、しかし!!!
「シュッ!」
俺は
「………ふっ」
朋ちゃんの顔が一瞬歪む。
まるで『俺の大鹿は、そんな事じゃ折れないぞ』と言ってるかのようだ。
俺もそう思う……ので!
「ハッ!」
手首のリングを柄に擦り付けるようにして、
柄との摩擦でリングを回して、
そのまま柄と平行に滑らせながら………
女性を口説くときに使うテクニックの応用だ。
触るか触らないかの距離で、腕の上をす〜っと撫でてやる。
「がぁ!?」
女性の場合なら産毛が立つくらい気持ちが良い筈なのだが……朋ちゃんは御気に召さなかったらしい。
すごく苦い顔をしてる♪
一瞬右腕に赤い線が走ったかと思うと、一気に鮮血が噴き出す。
「ぐぅ………」
「くぅ!」
紙一重で
朋ちゃんが交差させた腕を戻して、柄で突き上げる!
鮮血が俺目掛けて飛んできた。
目潰しらしいが、そんなものに引っかかる俺じゃない。
血粒を一滴ずつ確認しながら、微妙な体捌きで
それよりも、俺の服にかかってしまった事実の方が、被害甚大だ。
人の血って、洗っても落ち辛いんだぞ、コンチクショウ!
なんて酷い事をする奴なんだ。
きっと悪い人に違いない。
「セッ!」
とかなんとか思いながら、突き上げながら襲いかかってくる
にぃ!?
何かに足を取られた俺は、踵を軸にして後方に倒れこんだ。
状況確認では、ここいら辺に足を取られる物は無かった筈……。
だが、倒れこみながらも俺は見えてしまった。
柄から伸びている鋼線を。
あれで足を取るのが、接近戦の目的か!?
「あああぁぁぁ!!!」
倒れ行く俺に、朋ちゃんが
体勢の崩れを見て、勝機と悟ったのだろう。
確かにその
つーか、一撃で死ぬって。
それはヤなので…………。
「しゃぁぁぁぁ!」
足を交差させて、柄部分を足の裏で受けとめる!
受身を諦めての防御なので、地面に叩き付けられた背中が軋んだ。
一瞬息が詰まる………が!
交差させた足を戻すようにして、地面の上で平行に回る。
背中の擦り傷は免れまい。
この技使った後は、いつもお風呂が辛いんだよ、ホント。
「な、なに………」
「ぜやぁ!」
上半身を滑らせて朋ちゃんの方に向ける。
両手でベルトから
「………あ?」
血液と反応して、
青白い炎が上がり、朋ちゃんの太腿から香ばしい匂いがしてくる♪
このままじゃ、食欲が無くなっちゃうので………。
「だぁ!」
後転起き上がりの要領で、朋ちゃんの腹部を蹴り飛ばす!
香港映画のワイヤーアクションみたいな動きで、朋ちゃんが吹っ飛んだ。
俺が起き上がると同時に、朋ちゃんが遥か後方に着地する。
『楯岡』流、
仰向けの状態で足を交差させて武器を受けとめ、同時に身体を滑らせて敵の下方向に潜りこんで
太腿に刺す。
そんなに大した技じゃない。
最後の蹴りはオプション。
とはいえ、敵の下で寝転んでるんだ。
隙は大きいし、打ちこんだ
選ぶのが多い。
「く………つぁ!」
朋ちゃんがうめきながら、燃える
放っておいても、そのうち消える。
野駒では、長さが5cmの
まだ……牙は折れてはいないのだ。
大体、いかに『楯岡』特性の燐でコーティングされた
れない。
長さが3cm程度の
ちなみに俺の使う『楯岡』の
針身の強度や材質、コーティングしてある燐などは一緒だが、長さと太さが違うのだ。
俺が一番良く使うのは
長さが5cm、太さが1mmの
貫通力も着弾衝撃力も中々だが、なにより持ちやすいのが良い。
長さ3cm、太さ0.6mmの
ま、その分、
なにやら難しい化学反応が有るらしいのだが、俺はそこまで理解してない。
塗ってある燐は、親父が一人で背中を丸めてゴリゴリやって作るからだ。
俺にも教えてくれない、秘伝の製法とやらで。
溶けた針身が、焼いた腱や神経に絡まってこそ、牙が折れたことになるのだ。
燃焼時間が短すぎて
故に『楯岡』が的の牙を折る時には、神経節や腱に
「はぁ……はぁっ………」
肩で息をしてる朋ちゃんを見てると、そう遠い未来では無さそうだがな。
「流石………『楯岡』だ。勝てる気がしないな………」
俺も負ける気はしない。
朋ちゃんの額には、脂汗が浮かんでいた。
さぞかし、初めて出会う『恐怖』を堪能している事だろう。
よゆーなんか見せてないで、最初に逃げとけば良かったのにな、朋ちゃん♪
両腕からは血が滴り落ちてるし、右足の足首と脛はボロボロだ。
骨が砕けてるはずの鼻では、呼吸も苦しいだろうに。
そろそろ……折れるな。
「んじゃどうする? 逃げるか?」
逃がさないけどよ。
一度『楯岡』が『的』と見定めた敵に対して、故意に見逃す事など有り得ない。
不測の事態で逃げられてしまうのはしょうがねー。
そうなれば………追いかけて行って牙を折るだけだ。
『的』から外れる事など有り得ないのだ。
それは……茉璃ねーさんも同じ………。
「………逃げないさ………。まだ………手は残ってる………。『楯岡』を殺す手段はな……」
「ちっ! いい加減諦めて、俺に倒されろ! そして余生を穏やかに暮らせ!」
縁側で猫など抱いて。
「……そうもいかないさ。俺は藤林の長だ。安穏とした生活など送れはしない」
「………………」
まあ、気持ちは解るがな。
俺も多分……幸せな老後などやってはこないだろう。
生まれた時、それは定められた。
よく『逃れられぬ宿命』なんて台詞があるが……逃れられるよーでは、宿命とは呼ばないんじゃないか?
宿命とは、逃れる事の出来ないものだから、宿命なのだ。
それが俺や朋ちゃんを縛り付ける。
静流や康哉もそうだ。
背負うものが大きいほど、自由に動く事など出来はしない。
「………宿命……って奴か」
「ああ……そうだな。………宿命だ。藤林の家に生まれた……俺の宿命」
それは俺の宿命でも有る。
忍者として生まれ……『楯岡』として生まれ……。
だが………。
「そこから逃げたくて、あいつらに加担してんのか?……藤林の長とも有ろう者が情けないったらありゃし
ねー」
「………な………に?」
「宿命なんてものはな、逃げられないんだよ。逃げられないから宿命ってゆーんだ。お前はそこで駄々をこね
てるだけの、ただの甘ちゃんだ。図体のでかい子供だな、おい♪」
「貴様に何が解る!」
「逃げたいよう♪ もっと自分の思い通りに生きたいよう♪ 生まれとか周りの状況に反発したいよう♪ 社
会が悪い♪ 政治が悪い♪ ……………お前はロックンローラーか?」
ロックなんか聞いたことねーけどよ。
「貴様に何が解る!貴様に何が解る!貴様に何が解るっていうんだ!!!」
「逃げ出す弱虫の気持ちなんかわかんねーよ!甘えてんじゃねぇ!スキンヘッドのくせに!」
スキンヘッドは関係ないけど。
「『楯岡』の狗がぁ!」
ぼく、わんわんじゃないもん♪
「殺してやる! 殺してやる! 必ず殺してやる!!! 貴様の身体を叩き潰して、その臓腑を食らってやる
わ!!!」
「それはやめてくれ。お願いだ」
そんな死に方、ヤだ。
いつかは必ず死ぬだろーが……美味しく頂かれるのだけはヤだ。
女に食われるのは良いけど。
一部分だけならな………歯を立てないならなぁ………って、なんかヤだな。
どう思考を転換させようとしても、なかなかHシーンに辿り着かない。
本来ならそこの温泉に腰掛けて、身体の一部分が静流に美味しく食べられる
シーンを想像したいのだが………だから、食べられちゃだめだろ。
咥えられるくらいにしとけ、俺。
「死ねぇ、『楯岡』の狗ぅぅぅ!」
「ヤだって、言ってんじゃねーか」
朋ちゃんが片腕で
芸の無い攻撃だ………って!?
「!?」
背後からの殺気に、思わず身を屈める。
俺の髪の毛を何本か引き千切って、何かが頭の上を薙いだ。
しゃがんだ体勢で地面と平行の蹴りを………。
「にゃぁぁぁ!」
全裸の薄胸が跳躍して、俺の地擦り蹴りを
開脚してるので、イヤンな毛が風になびいた。
………おいおい、緋那ぽん。
俺は一体、誰のために戦っているのかな?
「にゃぁ!!!」
緋那が空中で足を振り上げ、踵を振り下ろす。
地面に這いつくばっている体勢の俺の背中に、90kg級の衝撃!
「ぐぼっ」
痛い………。
ビジュアル的には、誰にも見せたくない恰好だ。
全裸の薄胸に屈服する俺。
しかも踏みつけられるとゆー、特殊なプレイ。
……………………じょうおうさま♪
「にゃぁぁぁん♪」
緋那の足が、背中から離れた。
これ以上踏みつけられたんでは、違う趣味に走っちゃいそうなので……。
「………せっ!」
転がって、緋那の次手を
「なぁ!」
………短めの両足が、地面が歪むほどへこませた。
なんつー力だ……。
さっきのダメージからは回復してるんだな、緋那。
「だっしゃぁぁぁ!」
地面を転がってる俺を、別の殺気が襲う。
朋ちゃんの
こちらの攻撃は建設現場よろしく、地面を鋭くえぐる。
朋ちゃんの言ってた、『俺を殺す手段』ってのはこれのことか……。
だが、ニ対一になった程度では、俺を殺すのは無理だぜ、朋ちゃん。
ましてや瀕死のスキンヘッドと、全裸の薄胸ネコ耳女のタッグじゃな。
朋ちゃんの攻撃を
手首のリングを回して、
これで緋那を切り裂くわけにはいくまい。
力の限り抱きしめたくなるよーな、可愛い妹だからな。
骨の折れんばかりに!
「無い乳!挟み込め!」
「にゃぁん♪」
妙なコードネームで呼んでんじゃねー、スキンヘッド。
お前も返事すんな、薄胸。
俺を挟み込んだ二人が構えを取った。
緋那は俺の背後で、無い乳の前で半身に構える。
立ち技系のスポーツ選手が良く使う構えだ。
朋ちゃんは
「さて、どうしたもんか……」
情けない台詞が思わず出てしまう。
緋那を
だが………。
多分、緋那を操っているのは朋ちゃんなのだろう。
あの筋力馬鹿にそんな芸当が出来る気はしないが、今の状況じゃそれしか考えられない。
この手の術は、術者が葬り去られれば効果は消える筈。
『楯岡』の知ってる術ならな。
が……俺は朋ちゃんを屠ることは出来ないのだ。
殺しは『楯岡』にとって、ご法度だから。
かといって緋那を葬る事も出来ない。
………だから、殺しはご法度だっての。
大体緋那を『きゅう♪』ってさせちゃったら、何しに来たか解らねーじゃねーか。
「………いくぞ、『楯岡』」
「にゃぁぁん♪」
………イラつく。
不可抗力って事で、朋ちゃんだけでも殺しちまうか?
死体は重石をつけて、海に流す。
初夏の思い出と共に………。
………ガサガサ………。
そのとき俺達の脇の方で、草むらが動く気配がした。
緋那の耳がピクンと反応する。
いつか絶対分解することを、硬く心に誓った瞬間だった。
「………緋那?な、なにしてんの!!!そんな恰好で!?」
「静流サン!?」
…………おいおい。
レイナの叫びを聞くまでも無く、草むらから現れたのは………。
「と、とら!?なにしてんの!……緋那を裸にするなんて!!!」
誤解と怒りに満ち溢れた静流だった。
どーやってここが解ったんだよ!?
つーか、緋那は俺が来たときから既に全裸でした♪
「……危ないところだった。ようやく間に合ったぜ………」
朋ちゃんが口の端を歪めながら呟く。
間に合った………?
静流をここに導いたのは、朋ちゃんか?
しかし……俺に援軍をよこして、それでどうやって助かる気なのだろう?
俺の疑問に、朋ちゃんがぼそりと呟いて答える。
「……百地の戦力が増えるのと、『楯岡』が消えるのとでは………どちらが有利かな?」
……!?
………そーゆーことか。
「………『楯岡』に負けたままの状態じゃ、ちとしゃくに触るが……。生き残る方が先決なんでな。保険は打
たせてもらった」
「ああ、そうだな。忍者ってのはそーゆーもんだ」
静流に聞こえないように、朋ちゃんに返事を返す。
俺は『楯岡』だ。
その正体を、敵以外に見せるわけにはいかない。
特に静流………『百地』には。
有る意味『百地』を影から支えてるのは、『楯岡』なのだから。
『百地』の首領、百地源牙ですら知らない秘密。
忍者のシステムを支えている『楯岡』の存在。
いかに静流が巨乳だとはいえ、『楯岡』の名前を聞いてピンと来ないわけは無い。
巨乳は全然関係無いが。
影の闇に生きてこそ、『楯岡』は成り立っているのだ。
命尽きても、この秘密だけは守らねば。
それを知られたら、『百地』の存在意義が薄れてしまう。
忍者のシステムの崩壊の危機………って、違うな。
いや、建前じゃそうなんだが……本音は違う。
俺は……多分……静流に知られたくないんだ。
見られたくない。
『楯岡』の俺を。
気に入ってる。
多分……気に入ってる。
伊賀崎大河と、百地静流の関係を。
逃げ回る術ばかり得意な俺と、それをからかいながらも笑う静流の関係を。
俺が戻ってきたかった場所。
帰って来たかった場所。
今じゃお袋はいないけど……茉璃ねーさんもいないけど……。
妙な姉妹とか出来たけど……あのペンションは、外見も名前も店主も恥ずかしいけど………。
少しだけ変わったけど……それでも俺の帰って来たかった場所。
そして、静流はそこに居た。
居てくれた……待っててくれたんだ。
多分俺が『楯岡』だと知られたら、この場所には居られなくなる。
それが多分……怖い。
怖い……の……だが………聞こえてくる騒ぎが、俺の思考を妨げる。
「し、静流サン!?ど〜シてここに?」
「ひ、緋那!なんて恰好してんのよ!」
「にゃん♪」
「あれが………百地の娘……か」
「レ、レイナさんも……どうして転がってるんですか?」
「どしテデしょウ?」
「……一気に賑やかになったな……」
「にゃ〜ぅん♪」
「静流サン、バスタオル持っテまス〜?」
「ば、バスタオル!? 緋那、早くこっちに来なさい! そんな恰好じゃ、とらに何かされちゃうでしょ!!!」
「……最終局面……だな、『楯岡』」
「にゃ〜〜〜ん♪」
「バスタオル無いト、お風呂でブラリできナいデス〜」
「ぶ、ぶらり!?」
さて………どうしよう?
いろんな意味で。
END
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