「でぇっ!」
策も何も無く、取り敢えず突っ込んでみる。
状況を打開するには、無闇に考えても駄目だ。
無限の選択肢を思い悩んでいても始まらない。
少しずつ、少しずつ選択肢を狭めてやる。
どんな道を選んでも、結果は変わらない。
行きつく先は……イブリスの破滅なのだから。
「………!!」
イブリスが何かを叫んだ。
策が無いのが功を奏したのか、若干陣形が乱れていた。
それこそ俺の狙い!
今考えついたが。
「………!」
ああっ、陣形整っちゃった。
考えつくんじゃ無かった。
「………!」
「……!」
前方に居た2忍が、
俺の顔面と、腰狙いだ。
その程度の組み打ちでどーにか……。
「!?」
足元の砂が崩れ、一瞬腰砕けになる。
前方に4忍とイブリス。
まだ伏兵が!?
「……!」
と思ったが、そーでないらしい。
予め俺の足を取るために、掘っておいたのだろう。
この年になって、落とし穴に落ちるとは。
間抜けだし、ギャグとしても面白くない。
だが俺は、落とし穴に落ちた。
その事が俺を驚愕させていた。
俺は靴越しにでも、足裏の状況を読み取る事が出来る。
落とし穴など、瞬時に看破できる……筈だった。
つまりは、俺の感覚を上回る陰忍。
地味で情けない陰忍だが、地味に効果が在る。
「………!!」
「………!!」
2忍が銀光を煌かせる。
「せっ!」
身を屈め、
足元が穴の中なので、上半身しか動かない。
このままじゃ……。
隙が出来るのを承知で、足を引き抜いた。
「……!」
その瞬間を狙ったように、箸手裏剣が襲ってくる。
狙いは俺の心臓。
「な……めんにゃっ!」
噛んじゃった。
3忍目の投げた箸手裏剣を、左手でキャッチ。
そのまま脇の忍びの……。
「………ぐっ……」
へそを狙って突き刺してやる。
へそのあたりは腹筋が薄いので、内臓まで到達させ易いのだ。
この忍びは、俺の極枝で足を折っている筈。
弱いものから倒れていく。
自然でも闘いでも、それは変わらない。
こーゆーとき、指示を出している人間から叩くのは常道だろうが……。
忍者は基本的に『戦う』者ではない。
諜報と謀略が主たる任務なのだ。
手足をもがれた『頭』が逃げてくれるなら、それに越した事は無い。
もっとも……今の状況じゃ、俺は逃がさないけどな。
久し振りに……この地に帰ってきて、初めて怒りで闘っている。
「……」
もう1忍の
『影落とし』によりイブリスに操られている忍びの見せた、一瞬の躊躇。
心の奥底までは染められて居ないんだろう。
だが……それが命取り!
「とっ」
忍びの襟首を掴んで、十字に絞める。
あ、手触りいいな、この黒装束。
良い生地使ってんな、おい。
問題は、それがどこから供給されているかと言う事だ。
さらにゆーと問題は、今それどころじゃないという事だ。
「でぇぃ!」
襟首を十字に絞めながら、両足を敵の胸に当てて後ろに倒れこむ。
俺の背中が設置した瞬間……。
「だっっっ!」
背筋と脚力を最大限に使って、『伊賀崎』流の巴投げ。
そんなに投げなくてもってくらい、後方に投げ飛ばす。
普通こんな距離を投げると、容易く訂正を立てなおされてしまう。
故に『投げ』は、『投げる』のではなく、叩きつける。
だが俺は今回、『投げる』を選んだ。
何故なら……。
「ぎゃぁぁぁ!」
俺の後ろから
巨大な
「あちあちあちぃ!?」
霧散した火の粉が、仰向けに寝転がっている俺の身体に降り注ぐ。
匂いからすると、黒色火薬だけじゃないな。
甘い匂いがするところをみると、なんらかの化学薬品が混入されている。
物理とか理科とか、苦手なんだよ。
数学とか英語も苦手だな。
「……………!!!」
身体を焼かれた忍びが着落すると同時に、再び
なるほど……。
俺の考えを読めるってのは、便利なものだな、おい。
一気に突っ込もうと思っていた、俺の足が止まった。
なんにも考えずに、斜め後方に飛び退く。
ごぉぉぉ。
洒落にならない
1m以上離れているのに、熱風が肌を焼く。
まだ日焼けしたくない。
つーか当ったら、ミディアムレアになるって。
「……って、なっ!?」
足元がまた崩れ落ちた。
2忍倒したので、残りも2忍。
厳密に言えば土犬ではないのかも知れんが、便宜上そのように呼称しよう。
下段と上段の組み打ち。
しかも指示を出してる奴は、異常者と来た。
数ある俺の実戦の中でも、最大級にヤな感じだな。
「せっ!」
今度は足を取られる前に、穴から脱出する。
腰関節だけを使った跳躍。
足のバネを使わなくとも俺なら、この状態で2mは跳べ……。
「ちっ!」
着地した先が、また崩れた。
地面の下では土犬使いが、せっせと穴を広げているのだろう。
こんなことしてねーで、土木建築業にでも就職しやがれ!
「!」
跳ぶ。
「!?」
また崩れる。
んで、跳ぶ。
「……!?」
また崩れる。
何回か繰り返してるうちに、イブリスが遠く離れてしまった。
うむ、こんな面倒臭い状況だと、『頭』を接近して叩くのが有効だと思っていたところなのだよ、今。
「……………!」
突然背後から、熱の気配。
「でぇぇい!」
思いっきり飛び退く。
が、そこに飛んで来たのは、先ほどの巨大な
テニスボールくらいの
そうそう。
これがスタンダードな大きさなんだよ。
「……! ……! ……!」
早さがスタンダードじゃなかった。
普通の
時速でゆーと、150〜60kmくらいか?
だがこの
海を渡って、星の国でメジャーリーグにでも挑戦しやがれ!
今すぐ渡ってくれ、今すぐ。
今飛んで来た
なんか納得できるような、全然合点が行かないよーな。
「……って、ちょっと、待てぃ!」
ぼん、ぼん、ぼん。
転がって
これほど連続して放てる
しかも、燃焼温度が桁外れに高い。
砂が一瞬で真っ赤に染まっている。
これも……
『影落とし』といい、土犬に似た陰忍といい、この
見た事無い陰忍ばっかりだな。
世界は広いよ、おふくろ。
「………」
「………」
背後には堤防代わりのコンクリの壁。
何時の間にか追い詰められていたらしい。
4忍の時よりも、明かに統制が取れている。
4つよりも2つのほうが使い易いのか?
そのイブリスは……にやけた面でこっちを見ていた。
余裕しゃくしゃくの顔。
むかつく。
「……フフん♪」
最高にむかつく!
闘い方もむかつくが、考えを読まれているのも最高にむかつく!
「ららーら、ららららら〜ら〜♪ ららららららら、らららら〜ららららっ♪」
だけーど、ちっちゃいか〜ら〜、自分で揉んで、おっきく〜す〜るんだよっ♪
……………………。
この頭の上から聞こえてくる、トボケソングにも非常にむかつく。
この緊迫した状況で、きっちり歌詞をあてる己にもむかつくっつーの。
「………アレ? 大河サン♪」
ああ、そうだよっ!
第十五話 『夕日に染まって』
「ドしたんデスか〜?」
「来んな!」
頭の上のレイナに、怒鳴りつける。
俺の位置から見えないが、レイナの気配がビクっとした。
「そんナ〜。昨日かラ大河サン……。やっパり……」
「それに付いては後から謝るから! 今は来んな!!!」
だが……遅かった。
気がついてみると俺のいる位置は、昨日レイナが燃えていた場所だった。
ぼーぼーと。
俺が何か探してると、レイナは思ったのかもしれない。
レイナは堤防越しに俺を覗いて……見つけてしまった。
「……………エ?」
見つけはしたが、理解できてなかったらしい。
レイナは身を乗り出して……。
「あワらっ!?」
落ちた。
「……っ!?」
一瞬だけ身を硬直させてしまったが、別にそれは問題にならなかった。
レイナは俺の上に落ちてきたからだ。
くるくると回転しながら。
「ぐぼっ!?」
「はラ〜〜〜?」
レイナの薄い胸を担ぐようにして、なんとか衝撃を緩和させる。
俺の肩にしがみついたレイナは、目を回しているようだった。
でーでもいいが、こいつ……。
本当に胸無いな。
………………………。
………………………。
……………。
もみっ。
「きゃラん!?」
何語か解かんねー。
「よっ。起きたか?」
「いいいいいいいいいいい、今……ワタシの胸……。ももももももももっ、揉んだデス〜」
ラップ状態だ。
へい、よー……みたいな。
「いや、なんも無かったぞ」
「ひドい〜。気にしてるノに〜〜」
非難めいた声を出しながら、レイナが立ちあがった。
そして視線を正面に向け……。
青い瞳を丸くする。
あーあ、見ちゃった。
出来るなら……見せたくなかったんだけどな。
「た、大河サン……な、なんでデスか!!」
なんでと言われてもな。
あんまりにも唐突に登場してきたので、俺にも何が何やら。
レイナには……会わせたくなかった。
「なんでアの人たち、こっちをにラんでマス!?」
そっちかよ!
確かに2忍は、うつろな目でこっちを睨んでいる。
黒頭巾で隠されて、目しか見ることは出来ないが。
「お友達デスか?」
あー、そうだな。
出来るなら友情を育みたいよ。
俺の知らない陰忍、教えこんで欲しいもんだ。
つーか、なんで俺が友達に睨まれ……。
そこまで思って、己を振り返る。
俺のお友達は、眼光鋭い奴らばっかりだということに。
「お友達なラ、一緒に食事デモ……」
一瞬レイナの視力を心配したが、無用だったらしい。
レイナは気がついたのだろう。
晩餐に招待するような人間じゃないことに。
初夏に相応しくない、凍った声。
「……………………パ………………パ………?」
レイナの声が聞こえたかどうだかは解からないが、イブリスはにこやかに寄ってきた。
これで親父が異常変質者じゃなかったら、良い場面なのだが。
レイナの白い肌は、血の気を失って真っ青だった。
立ちあがってレイナの姿を隠す。
レイナの視界を遮る意味合いも有る。
「邪魔デスよ、『楯岡』♪」
「楯岡ゆーな」
それは内緒なんだって。
ま、どーせ、
今までの戦闘から察するに、イブリスの能力は『人の思考を読む』と『人に思考を伝える』だと思う。
『影落とし』で思考を奪われた黒装束は、イブリスの伝える思考にしたがってしまうって寸法だ。
レイナの能力とは、根本的に違うらしいな。
「父と娘の再会を邪魔しないで下サイ♪」
「俺んちの従業員に、手出しは止めてもらおう」
「自分は娘の乳、揉んだクセニ」
ま、それは置いとけ。
俺の後ろではレイナが奮えていた。
いつもなら『あ、思い出しまシタ。乳揉まレたデス〜』とか騒ぎそうだったが、今は沈黙している。
いや……怯えているんだろう。
実の父親に。
俺も、俺の親父は怖い。
だが……そーゆーものとは、根本的に違うのだ。
「レイナ」
びくっ。
後ろでレイナが怯えた気配。
「良い子だから来なサイ♪」
びくびくっ。
レイナが……気配が怯えている。
そのことが……むかつく!
「………レイナ」
「!」
イブリスの声と同時に、
最後の
「……!」
「……!」
簡単に弾かれてしまった。
イブリスの両脇にいる忍びが、軽い息と共に
……………………?
今……なんか閃いた気が……したんだけどな。
「無駄ネ。アナタにはボクを倒せない」
「そんなことねーさ。4忍のうち、2忍を倒したんだ。もう一頑張りで貴様の両手両足をもげる」
呆れたような表情を見せたイブリスが……笑い出した。
癇に障る奴だ!
「ボクの両手両足もイデも、なんの意味もないヨ。ボクはヘビだかラ♪」
………蛇?
確かに青白い顔はのっぺりとして、蛇のように見える。
レイナの透き通るような肌とは、形成物質が違うな、おい。
「………イブリス………絶望とイウ名の……蛇のナマエ………デス……」
俺の後ろでレイナが、うわ言の様に呟く。
しっかし……。
イブリスってそんな意味の名前なのか?
付けた親の顔がみてーわ。
そりゃ子供もぐれるって。
「親は死んだヨ。ボクが殺した♪」
………はぁ。
筋金入りの異常者だな、こいつ。
異常者に背骨が有ったらの話しだけどよ。
「アナタのたわ言に付き合う気はないネ。ボクが用事有るのは、レイナだけ♪」
「だから殺させねーって言ってんだろうが!」
レイナは……もう、俺の知り合いだ。
うちの従業員で……仲間。
手出しはさせない。
「………アナタ、なにか誤解してる。ボクはレイナをコロす気はないヨ」
………へ?
んじゃ普通に会いに来たとか?
いやいやいやいや。
それは無い。
レイナの言葉を信じるなら、レイナの母親を殺したのは、この異常者のはずだ。
そして俺は……レイナを信じる。
それに自分でも言ってたじゃねーか。
レイナのことを『殺すために作った』って。
………自分で反芻してなんだが、なんて嫌な言葉だ。
「そう。最初はそのつもりだったノ。でもこの国で逃げてるレイナを捕まえるノ、ボク一人じゃ辛いネ」
びくっ。
レイナが怯えている。
俺はなんとかコイツの言葉を止めたくて、戦闘を練るが……。
自分から仕掛けても、勝てそうに無い。
カウンターにしか、活路を見出せなかった。
そしてそれが『解かって』いるから、イブリスのやろーは長々と演説を打てるってわけだ。
「だからこの国のコネを使った。ボクの妻、なかなか使えるネ♪」
レイナが
保護を求めた先が、自分を利用する集団だとも知らずに。
それは母親のつてだとも、レイナは言ってたっけ。
同じルートを利用したって訳か。
「そこで彼等は、面白いことを計画してたネ。ボクも乗っかることにしたノ♪ ボクとレイナはワンセット♪」
なんだか解からんが、どーせろくでもねーことに違いない。
「だからレイナ必要。必要だからコロさない♪ 凄く残念だけど……もっと面白いこと、あるネ♪」
びくっ。
レイナの怯えと同じくらい背筋が寒くなった。
イブリスの面白いこと……?
「レイナ」
びくっ!
「来なさい♪ 来ないと……レイナと親しくなった人間が……ボクのおもちゃになるヨ♪ 逃げても同じ♪」
……………。
イブリスの言葉を聞いたレイナは……。
俺の肩を押しのけて前に出た。
冷たい手だった。
その冷たさにいらついて……。
俺はレイナのリボンを引っ張る。
「……ア?」
レイナのリボンが解けて、白い髪が潮風に流れた。
白い髪。
さらさらと流れる。
さらさらと。
綺麗だった。
「大河……サン?」
「下がってろ、貧乳」
俺の前に出たレイナの、さらに一歩前に出る。
呆然とする青い瞳が、なんだか面白くて。
思わず笑みを浮かべてしまった。
レイナから強奪したリボンを、俺の顔に巻きつける。
急ごしらえだが……これで、『楯岡』っぽい。
なんの意味も無い行為だが……気合いだよ、気合い!
甘い匂いが、俺の
今は楽しんでる暇が無い。
「で、でも……」
「お前がどー思って、どー行動しようが知ったこっちゃねー」
レイナの肩を軽く押してやる。
数歩たたらを踏んで……砂浜に尻餅をついた。
「だけどな、レイナ。アイツは俺の敵なんだ。お前の父親なんかじゃねー」
目の前の2忍が、
カウンター狙いだと思ったが、そうも言ってられないな。
装備は……
「あれは……俺の敵だ!」
俺が『楯岡』であるということ。
すなわち……的となった者の牙を折る。
それだけの事だ。
「大河サ……!」
レイナの言葉を最後まで聞かずに、イブリス目掛けてダッシュする。
久々の感覚。
怒りが身体を駆け巡っている。
だが、頭は冷静だ。
思考までヒートすると、行動が単純になってしまう。
俺の身体は、一番効果的に敵を倒すように訓練されているから、それに心を委ねるだけ。
「……」
「………」
2忍が俺とイブリスの前に立ちはだかる。
俺は……。
「シッ!」
一気に横っ飛び。
俺の後を追いかけるように、2忍の視線が動く。
これで
「……………!」
イブリスが何か叫んだ。
それと同時に2忍が動く。
馬鹿か。
「でぇい!」
一足飛びに間合いを詰める。
「……!」
それが馬鹿だって言ってるんだ。
人の指示で闘う者が、忍者の反応速度に敵うと思っているのだろうか?
遠距離ならばともかく。
ましてや……。
「シッ!」
俺は『楯岡』のなのだ!
そのまま、肘で捻った。
ぱぐっ。
鈍い音で、柄元から折れる。
「………………!」
もう1忍の黒装束が、土の中に潜ろうとしていた。
「でっ!」
サッカーボールを蹴る要領で、地面をこそぐ様に蹴る。
ぱくっとした足応え。
いつ蹴っても、人の顔は脆い。
「あぐっ!?」
意味不明な叫びを上げて、土犬使いが地面に消えた。
普通の忍びなら、俺の蹴りを食らって無事で済む訳はないのだが……。
「……!」
すぐに地面から
やっぱりな。
「!」
俺は垂直に飛んで
……………。
着地と同時に、再び
外したか。
脳天に突き刺してやろーと思ったのに。
「………!」
膝が伸び、つま先が先に出てくる独特のフォーム。
これで解かった。
「せっ!」
左脛でブロックする。
この蹴りの手法は……。
「……!」
軽い排気と共に、強引に足首を反して引き寄せる。
そのまま極枝に持っていく腹だな。
初めて見るならともかく……。
「せぇぇい!」
俺は引き寄せられるまま、右足を左足と揃えるように、空中に投げ出した。
「ぐっ!?」
俺に通用するか!
空中で放った俺のつま先が、黒装束の顎にヒットする。
この蹴りの技法。
信州は上田、
蹴りを伏線として足首で相手のブロックを引き寄せ、逆足での飛びつき蟹ばさみ。
倒した相手は、そのまま極枝の餌食ってわけだ。
ってことは……
もしかすると、『土犬』使いの実玖衆も堕ちてるのかもしれないな。
早急に確かめる必要があるのかもしれない。
こちらに仕掛けてこない限り、確かめる気はなかった。
それは親父の……『楯岡』流現当代、楯岡道座の仕事だから。
俺はただの兵隊だ。
たった一人の、『楯岡』の兵隊。
「……!」
イブリスが何か叫ぶと同時に、
「シッ!」
肩口に隠していた隠袋から、
ぴぃん。
地面から突き出してきた
やるな。
俺の抜き投げは、恐らく一番早い。
誰よりも。
イブリスは恐らく、俺の投げる呼吸と軌道を『読んで』、土犬使いに指示を出したのだろう。
指示を出してから間に合うわけないと思ったんだが……俺の推測以上に反応が早い。
ごおっ。
この
普通の人間ならともかく、忍者にとっちゃ『投げますよ〜♪』って言ってから投げてるようなもんだ。
冷静になれば……。
「シッ!」
俺は横に飛んで、
レイナのとの距離は、8m。
レイナとイブリスの距離は、10m以上まで開いていた。
イブリスが何か仕掛けても、充分に対応でき……。
「ぐっ!?」
右足に、激痛。
戦闘中なのにも関わらず、俯いて確認。
酷いことに……足の甲を貫いて……
少しだけしびれるような感覚と、尻の穴をつんざくような激痛。
お気に入りのスニーカーに、醜い穴が開いてしまった。
許せん!
お気に入りっても、コレしか持ってないってのもあるが。
幸い靴紐は切れてないが、不幸にも一番痛い所をつんざいている。
「ちぃ……」
もう一度飛んで、強引に足を引きぬく。
衝撃で、甲の骨が何本か折れた。
全治十日ってところか。
骨折くらいなら、十日で治さなきゃな。
「………! ……! ……!」
俺の着地地点を狙って、小さいサイズの
ここまで俺の行動が読まれ……先に先に手が打たれている。
「な……」
俺を誰だと思っている?
俺は……。
「なめるな!!!」
『楯岡』なのだ!
と、同時に……。
「せぇぇぇぇぇぇ!」
左手で抜いた
読まれているなら、読まれているなりの闘い方があるのだ。
「………!」
軽い痛みが走った……が。
同時に手応え。
「ぎゃぁぁ!?」
「ぱぶっ!?」
下から飛び出してきた土犬使いの頭突きを、まともに食らってしまった。
思わずのけぞって転がり倒れる。
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
俺の突き刺した
眼球の水分と反応した
普通の燐とは、桁違いの燃焼温度。
瞳だけで無く、まぶたも焼いている。
嗅ぎたくない匂いが、俺の鼻を突いた。
何回嗅ぐっても嫌な匂いだ。
「ぎゃぁぁ……」
「うるせぇ!」
腰の陰袋から、
筋肉をかき分け腱に辿りつく頃には、血液と反応した燐が針身を燃やす。
ぽぅ。
黒装束の両肩が、青白い光を放った。
これでこの土犬使いは、箸すら持てない生活が始まったのだ。
俺の投げた
破壊された神経節と腱合は、どのような外科手術でも回復できない。
メカとかにとっかえれば、動くかもな。
俺の……『楯岡』の的となると言うことが……どういうことか解かったか。
「今……貴様の牙が……折れたんだ……」
「ぐぅ……」
両手をブラリと下げた土犬使いの襟首を、左手で取る。
「せぇ!!!」
斜め上にカチ上げながら頚動脈を一気に絞る。
本来なら着物の摩擦で、動脈を切断するのだが……殺してはいけない。
その動作が終了する前に、左肘を右胸に叩き込んだ。
同時に……。
長さ五センチの
本当は心臓を突き破りたいくらいだが……。
「………………」
静かに崩れ落ちる土犬使い。
やっぱり……どれだけ怒っていても、俺は『楯岡』なのだ。
殺すつもりで撃った『鵙』も……いつも通りにしか撃てなかった。
頚動脈を裂きもしなければ……
殺しても良いくらい……『楯岡』の掟を破ってもかまわないくらい……怒っているというのに。
「……………!」
ごおぉ。
正面から轟音。
……解かってないね。
「しっ!」
俺は斜め前方に飛んだ。
熱風が脇を通りすぎて行く。
「……! ……!……」
二発の
もう一発放とうとしているその腕に……。
「セィ!」
二の腕に、青白い着弾痕。
「がぁ……」
「!?」
足元で爆発して、火の柱が上がった。
「うっ!?」
「でぇい!」
火の柱を斬り落とすような、俺の上段蹴り!
俺のスニーカーが、
「ぐぁ!」
足元で暴発した
「シッ!」
両手で
黒装束を燃やしているのとは違った、青白い炎が両肩口に灯る。
これで
「おぉぉ!」
間合いを詰め……。
後ろから、左内腕刀を喉元にめり込ませて……。
「!!!」
『楯岡』流、
内腕刀と
『楯岡』流の中でも、特に破壊力の高いこの技を、裏から撃ったのは初めてだった。
それでも……死なない程度には調節してある。
「おらっ!」
俺の左腕に体重をかけている黒装束を、腰の回転で海まで投げる。
火を消しとかないと、焼死しちゃうからな。
溺死するかどうかは、コイツしだいだ。
俺がこの程度の
土犬使いとの連携があったからこそ。
それが……解かっていなかったのだ。
「ぱちぱちぱち♪」
「口で言うな」
何故か余裕な表情で、イブリスが近付いてきた。
むかつくこと、この上ない。
「流石、伝説の戦士ネ♪ 簡単に済まそうと思ってたのに、駄目だったヨ♪」
そんなもんになった覚えは無い。
所詮俺は、忍者。
この世界では、あらゆる所に存在している。
人に知られている『職業』としての忍者や、スキルとしての『忍者』。
俺みたいに『使命』としての忍者なんかも、数は少ないが居ることは居る。
そりゃサラリーマンやゲーマーみたいに数は多くないが、『どへー!
過去に有名だった忍者も居るが、三大大忍とか小説に出てくる連中だろう。
ま、言ってみれば、それが問題なんだけどな。
「もう一度聞くヨ♪」
「いい、聞かなくて」
イブリスの言葉を遮る。
何を聞かされようが、コイツは倒す。
でなければ……俺に牙を折られた
立てる必要も無いのかも知れんが。
「……人の話しは聞きなサイって、先生に習わなかったノ?」
「済まんな。あんまり学校行ってないもんで」
俺の教育のベースは、陰忍と陽忍。
あ、あと『宿命』。
「忍者ってのは、なかなか辛いネ♪」
ほっとけ。
「ボクは良い学校に行って、優しい両親に恵まれたヨ♪ 綺麗なオクサンにも出会えたし……」
そんなんで、何でグレちゃうかなぁ?
いや、グレるって程度では済まないが。
イブリスは、俺の心を聞いたのだろう。
笑った。
酷く気持ち悪い笑み。
爬虫類が、甘い物を食べ過ぎて三日くらい寝こんだ後に見せる笑みだった。
自分で想像してなんだが……思わず吐きそうになる。
「良い娘も生まれたヨ♪」
「……………!」
遠くで、レイナが顔を覆った。
潮風に乗った呪詛は、レイナの耳に届いてしまったのだろう。
それが……悔しかった。
だが、俺から動くのは得策ではない。
済まん、レイナ。
もう少しだけ……もう少しだけ辛抱してくれ。
コイツを、お前の前に……………………。
「アナタには無理ネ♪」
イブリスが懐に手を忍ばせた。
と、同時に、俺の抜き投げ!
きぃん。
酷く遅い動きだったが、それでもイブリスの手にはナイフが握られていた。
刃渡り15cm程度のナイフに、俺の
いや……違う。
俺が『投げる前』に、既に軌道上にナイフが有った。
つまりは……そーゆこと。
「そーゆーことネ♪」
イブリスはナイフを嬉しそうに弄びながら呟いた。
刃渡り15cmのナイフは、銀色の光を放っている。
何処にでも撃ってそうな、酷くスタンダードなナイフ。
黒いグリップは、樹脂製だろうか?
「ボクの目的は、レイナを手に入れるコト♪ あと……」
頭の中で、ナイフ用の対処が閃く。
だが……それを読まれているんでは、お話しにならない。
「アナタを捕縛することネ、『楯岡』♪ 生きてても死んでても構わないヨ♪」
それは捕縛っていわねー。
その言葉が終わると同時に、イブリスの身体が泳いだ。
決して訓練された動きで無いのが解かる。
遅いのだ。
「せっ!」
一足で飛んで、イブリスの懐に……。
潜りこめなかった。
「ふふン♪」
イブリスがステップバックしたからだ。
早い動きじゃない。
早くは無いのだが……。
「ヤッ!」
銀光が煌いて、俺の喉首を狙う。
その程度の斬撃で!
「だぁっ!」
「!」
ナイフが急速に動きを変えた!?
ぬめるような銀光の軌跡が、すっと俺の肩口に吸いこまれる。
ちょっぴり肩の肉を削られた。
びりびりした痛みが、肩の上に乗っていた。
………てめぇ。
「ヤァ!」
ヘナヘナになりそうな掛け声と共に、再び銀光が泳ぎ出す。
粘着質な、爬虫類を思わせる動き。
「く……そがっ!」
先手を取られたので、防戦一方になってしまった。
次々と矢継ぎ早に繰り出される、ナイフでの斬撃。
それが……
「……! ……! ……!」
「くっ……」
決して早い動きではないのだが、軌道が微妙に変化するのだ。
俺の防御をかいくぐるかの……いや、避けるかのように。
致命傷だけは負わないものの、身体のそちらこちらが切り裂かれる。
厄介な……斬撃だ。
「ホラホラ、どうしたノ、『楯岡』♪」
繰り出される斬撃は、俺の防御を掻い潜っていく。
その度に、俺の身体が切り裂かれて行った。
だが俺も、無策で切り刻まれているわけじゃない。
心を………静めろ。
「………………」
つしゃ。
つしゃ。
……きん。
「……! ……! ……!」
つしゃ。
俺の身体に、また一筋。
赤い線が走る。
つしゃ。
つしゃ。
きん。
四連撃目は、俺の
「……アナタ……まさか……」
つしゃ。
きん。
きん。
きん。
つしゃ。
きん。
きん、きん。
きん、きん、きん、きん。
「……なにも……考えてないノ?」
きん、きん、きん、きん、きん。
煌くナイフだけに、身体が反応する。
己の反応速度だけで……来る物全てを弾く!
きん、きん、きん、きん、きん、きん、きん、きん、きん、きん。
徐々に俺の防御が、イブリスのナイフの速度を上回って行く。
「………甘いネ、『楯岡』♪」
きん、きん、きん、きん、どぉぉん。
「ぐぁっ!?」
一気に思考が甦る。
右腕に……激痛!?
思わず飛び退いて、距離を取った。
見ると……
鋼糸を張り巡らせた
そして鼻を付く、硝煙の匂い。
右腕が……焼けるように熱い。
牙を折られた奴の気持ち、解かったかもな。
「こころを読めないってのは、不便なものネ♪」
イブリスの手に、黒い塊が握られている。
コンパクトなそれは、拳銃だった。
手の平サイズの、プラスチックみたいな輝き。
「グロック社製の、G26ネ♪ 全長16cm程度なのに、9mmパラを撃ち出すニクイやつ♪」
あー、本当に憎いよ。
俺の右腕は、激痛で感覚が鈍っていた。
拳銃で撃たれたのは、二度目だ。
今回の方が、格段に痛い。
「どう、『楯岡』? そろそろ降参しないノ?」
「するわけ……ねーだろ」
傷が
幸い出血は、普通の貫通傷と同じくらいだった。
貫通はしてないので、俺の右腕の中で銃弾は止まっているのだろう。
太い血管は切れてない。
まだ……多少の余裕はあるってコトだ。
「強情ネ♪ そんなんじゃ長生きできないヨ♪」
するつもりなんかない。
「ハッキリいうヨ。彼等の目的には、アナタが居た方が良いらしいノ。でも、もし仲間にならないなら……その
時は殺すだけヨ♪」
彼等とは、
あいつ等が何を企んでるか知らんが……。
「忍者の国を作るらしいネ♪ そのために邪魔な者は殺すダケ♪」
………………アホか、こいつ。
それをバラして、どーすんだ?
「アホとは失礼ネ、アナタ」
イブリスは本気でむっとしていた。
異常者呼ばわりされるよりも、アホって言われる方が嫌いらしい。
「レイナは……なんで必要なんだ?」
「レイナのチカラが欲しいらしいノ。レイナの能力。ボクのより実戦的じゃないけど、なかなか使えるネ♪」
レイナの……能力?
やべ。
血が……抜けていく。
動きが……鈍る。
「レイナの能力で……何でも……古いBookを読むとか……」
なるほろ。
イブリスは解かってないらしいが、俺にはその目的が解かった。
つまり。
忍者の力を用いて裏から支配するのではなく……表も掌握。
そのために、忍者の家系に伝わる秘伝書……『秘忍書』を手に入れるってわけか。
秘忍書には現代に伝わっている陽忍や陰忍以上の術が、詳細に記載されていると言う。
だから『秘忍書』を持っていた『藤林』『藤堂』『
兵員確保と『秘忍書』奪還の、同時策ってわけだ。
勿論手に入れただけでは『秘忍書』は役に立たない。
強引に開けようとすれば、燃え尽きちゃうしな。
そこでレイナの能力が欲しいってわけだ。
古来から伝わる『秘忍書』を、開けずに読めるレイナの能力を。
中身見たら、びっくりするだろうがな。
「なるほろ〜♪」
真似すんな。
しかし……アホだな。
「アホは失礼ヨ、アナタ」
「オマエじゃねえ」
いや、イブリスも充分アホだが。
「むぅ」
「アホに使われるのは、アホ以外何者でもないだろ?」
そんなことが本気で出来ると信じてるのか、
いや、忍者の力を持てば可能かも知れん。
武力で抑えた民衆が、抑えられてると気付かないなら。
事実、戦国の世はそうして平定されていたのだ。
戦国時代は、拮抗した勢力があったからそのシステムは破綻した。
今の時代なら……本当に可能かも知れん。
表で政治家を掌握して、裏ではアングラ勢力を抑えれば良いんだもんな。
しかし、そこまでする意味が有るのだろうか?
忍者が表に出るのは、有る意味本末転倒だ。
己の力を、己のために使ってはならない。
それが忍者なのだから。
そんな馬鹿を撃つために……。
「俺が……『楯岡』が居るんだ!」
「なら死になさい! アナタが邪魔なのは、彼らも言ってたヨ!」
イブリスが再びナイフを煌かせる。
今度は、さっきのような
拳銃も視野に入れないとな。
「……!」
「せぃ!」
イブリスが動いたのを追いかけるように、俺の
きぃん。
また弾かれてしまった。
あ、
これだけ
もっと持ってくりゃ良かったぜ。
「『楯岡』さえ居なくなれば、こんな面倒なことはしなくても良いってネ!」
その面倒に、オマエが入ってるのには気付いていないのかね?
すぃっ。
ナイフが俺の胸を裂いた。
2mm程度の深さ。
致命傷ではない。
「ボクは人を殺せればそれで良いネ♪ ボクの国じゃ、ボクを疑う人間も出てきたノ……レイナのせいヨ!」
どぉん。
「がっ!」
轟音と同時に、足の甲を痛みがつんざいた。
上半身や太腿は警戒していた俺にとって、それは全くの予想外の衝撃。
いや……違うか。
俺の予想を『外した』んだな。
すっごく痛い。
刺された痛みと、焼かれた痛みが同時に来たみたいだ。
出来ればさっき、
「ぐぅ……」
してないみたいだった。
てゆーか、逆の足だよ。
一瞬動きが止まった俺の……。
つ。
「…………?」
軽い音をたてて、俺の額が裂けた。
視界が赤く染まってゆく。
額を……斬られたのか?
斜めに切られた傷から、鮮血が滴り落ちる。
「………!」
不味い!
俺の動きが完全に止まったのを確認しての、止めの一撃。
銀の閃光が、俺の胸に吸い込まれようとしている。
普通、なんか言ってから止めだろ。
無言で心臓を狙うか?
「くっ!」
無駄だと思いつつも、
俺の心臓に食い込もうと、肌を刺したナイフ。
その動きを止めたのは……。
「パパァ!!!」
「……!?」
レイナの叫びだった。
イブリスはナイフの動きを止めた後……。
「………黙って見てなさい、レイナ。パパが今ジョウズに、解体するところをネ♪」
いやなこと言いやがった。
「やめテ、パパ! 何でも……何でも言うこと聞きまスかラ〜!!!」
レイナが俺達の元に駆け寄ろうとして……転んだ。
「ハらっ!?」
すぐに起き上がる。
その青い瞳に涙を溜めて。
白い髪を、潮風になびかせて。
痛かった。
両足も痛ければ、無数に切り刻まれた全身も痛い。
「もし大河サンをコロしたら、ワタシも死にマす!!!」
酷く遅い速度で駆け寄りながら……レイナが慟哭している。
痛い。
「……それは困るノ。ボクとレイナの就職は、ワンセットなんだからネ♪」
ひゅっ。
イブリスのナイフが、俺の肩に吸いこまれる。
致命傷を避けながらも、俺を行動不能に落としいれようとしているのだろう。
銀光を……。
左手で掴む。
素手の左手。
痛い。
痛いんだよ……。
「………エ?」
ナイフを握った左手を、
ばぐっ。
指が折れそうな衝撃で、左拳が天を突いた。
ナイフの刃を握ったまま。
拳の中で、ナイフが皮膚を裂く。
痛い。
ものごっつ痛い。
掌も痛い。
足も痛い。
身体中、痛くないところはないくらいに痛い。
だが……。
「………勝手に俺を交渉材料にすんなよ、 レイにゃ」
噛んじゃった。
俺の噛んだ台詞で、レイナの足が止まる。
どーか、気付きませんように。
……とか言いつつ!
「!」
右足を弓なりに逸らせて、まっすぐ突き出す!
正確には、思いつつ、だったな。
どーでも良いことだけど。
「とばル!?」
意味不明なことを叫びながら、イブリスが吹き飛んだ。
伊賀崎流、回し蹴りみたいな前蹴り。
ちなみに正式名称。
「……大河……サン?」
レイナが青い瞳を涙で濡らしている。
痛い。
そのことが……痛い。
俺は別に、レイナを女として好きなわけじゃない。
まだ。
まだ、だ。
だが現在、アイツは……。
俺の仲間なのだ。
俺の帰りたかった場所に居た、オレンジリボンのトボけた女。
それだけだが……。
泣き顔は……痛い。
「どうシて………? どうシて……ワタシの………ワタシ………」
「まあ……天気も良いしな」
幼い頃から見なれたはずの、大きな夕日。
俺の顔に巻かれた、レイナのリボンと同じ色。
それだけで、理由は充分だ。
気が短いのに、闘う理由なんかいちいち覚えちゃいねー。
「ボクを……蹴ったネ………」
イブリスが身体を起こした。
その青い瞳が……怒りに燃えている。
「だからなんだよ」
「やっぱり……殺す……ネ。アナタを殺して……レイナを手に入れるヨ……」
俺は両手で、額を掻き上げた。
裂かれた傷と掌からの出血で、髪の毛が血で固められて行く。
無駄に長い俺の前髪が、後方に流れた。
血のオールバック。
ついでに袖でまぶたを拭う。
拭ったが、視界は真っ赤だった。
夕日に染まっている。
もうすぐ沈み掛けの夕日の前で。
俺と父娘は対峙していた。
「あれは俺んだ。渡さねー」
「………たた、大河サン〜〜〜?」
ん?
あれ?
何故レイナが、赤面してる?
………えーと。
………ん?
あっ!?
「訂正。あれは俺の家の従業員だ。引き抜きは止めてもらおう」
「言い直さなクても、良いノに〜〜〜」
そーはいかねーだろ。
無用な誤解は避けなければ。
「………この状況で、余裕ネ、『楯岡』……」
あー、そうだな。
この余裕があってこその……俺だな。
「見てろ、レイナ」
「………………」
「今すぐアイツを跪かせて、オマエに土下座させてやる」
レイナは……青い瞳を光らせて。
白い髪をなびかせて。
夕日に染まって。
つらそうに。
だけど……精一杯に。
「ハイ♪」
笑ってくれた。
さあ、第ニラウンドだ!
END
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