「お願い、とら……あたしのために、死んでくれる……?」
「ふざけんじゃねえ! ……と言いたいところだがよ。まあ、いいぜ。お前のために、死んでやるよ」
「……とら……」
「惚れた女のために、楯岡の幕を下ろす。俺らしいじゃねーか」
「とらぁ……」



修学旅行のために訪れた京都。
そこに待ち受けていたのは、最終決戦。
後に『京都大戦』と呼ばれる、忍者滅亡の危機であった。
全ての忍びが、京都に集結する。
血風と策謀に身を委ねるため。



修学旅行、それは学校生活において最大級のイベント。

「そりゃっ!!」
「くっ!!いきなり押すな、危ないだろうが!!」
「行け行け康哉、10万ボルトだ」
「行けるか!」
「大丈夫だって、お前ならここから落ちても無事でいられる」
「清水の舞台から飛び降りれるわけ無いだろうが!!」



いつもと違う場所でいつもとは違う戯れ方が出来る。

「待て!大河!」
「待てって言われて待つヤツはいねぇよ」
「ぐぉっ!!鹿がっ!!」
「っつう訳で行くぞ、静流!!」
「それはいいけど……康哉に何したのよ?」
「あぁ、鹿せんべいを粉々に砕いて体中にぶっかけてやった」
「あ〜……だから鹿があんなに群がってきてるんだ」



勿論、恋の花咲く事もあるかもしれない。

「ほんまご免な……急に呼び出したりしてしもうて」
「それは構わないが……」
「あのな……笑わずに聞いて欲しいんやけど……ウチ康哉の事が好きや」
「……えっ?」
「そりゃ……いつもはふざけたりしとるけどな……これは本当の気持ちやねん」
「……いきなり、そう言われてもだな……」
「いや……返事はくれへんでもいいんや……ただうちの気持ちをはっきりさせたくて」
「……」
「あははは……迷惑やったかな……」



交差する陰謀。

「裏切ったのですね、藤堂っ!」
「いつまでも、女の感傷に付き合って入られませんからね。既に道阿弥衆は、我が手に」
「おのれ、藤堂! 影友様の意思を、己の欲望のために捻じ曲げるとはっ!」
「どのように仰ろうとも、既に手遅れ。貴方はただの傀儡なのですよ」



初の陵辱シーン。

「にいちゃん! そないなことするために、ウチは『草』になったんとちゃう!」
「凛。お前も忍びなら、解るだろう」
「解らん! 解りたくもない!」
「凛! 思い出さねばならぬようだな……身体に刻みこまれた、欲望の縛鎖を……」
「え……いや……いやや……にいちゃ……あああっ!?」



旅と言えば出会い、思いがけぬ人との出会いもある。

「さすがだな、楯岡」
「そっちこそな、石川」
「しかしこれしきの人数で我等を倒そうなど笑止」
「俺達を倒したかったら少なくともこの10倍は連れて来い」
「あのね……二人とも怪しい世界を作らないでよ……」
「そう……二人はそんな関係になっちゃったんだ……お姉さんは悲しいな……」
「茉璃ねーさん……」
「どうして茉璃さんが?」
「もしや……こいつらは……」
「久しぶりね、こうして3人に会えるなんて……ちょっとした同窓会みたいね」
「で、茉璃ねーさん、こいつらって何なんだよ?」
「ん〜……私の敵かな?」
「敵ですか?」
「そうよ、貴方達が減らしてくれて助かったわ。ちょっとだけ危なかったのよね」
「……助けたつもりなんてないです」
「そんな事言わないで、もう少しだけ助けてくれないかしら?」
「まっ……後で詳しい事聞きゃいいだろ。今はこいつらをどうにかしないと、俺らが宿に帰れねぇよ」



三派に別れ、滅亡へとひた走る。

「なんでよ、とらっ!? この状況なら、茉璃ねーさんだってっ!」
「覚えとけ、静流。敵の敵は、味方じゃねーんだ」
「……そんな……」



しかし楽しい時間というものは、すぐに終わってしまうだ。

「こりゃ……ちょっとばかりヤバイかな……」
「ふふふふ……さすがね、とらちゃん」
「こんな状況で褒められても嬉しくなんてねぇよ」
「せっかく褒めてあげてるんだから、少しは喜びなさい。ホント……昔はあんなに可愛かったのに」
「前にも言ったけどさ……茉璃ねーさんは相変わらず綺麗だぜ」
「ありがと、とらちゃん。お礼にここでは殺さないどいてあげる」
「そりゃ、どうも」
「でも……次に会ったら殺すわよ」



女と女の戦いというものは激しく苛烈で美しい。

「……あんたのせいでっ!!あんたのせいでとらがっ!!」
「それは違うわよ、静流ちゃん」
「何が違うって言うのよっ!!」
「だって……とらちゃんは静流ちゃんを助けてああなったんでしょ?だったらそれは静流ちゃんのせい」
「……くっ」
「もう分かってるんでしょ?悪いのは自分だって」
「うっ……」
「ただ静流ちゃんはそれを認めたくないだけ。だからこうして手っ取り早く私のせいにしてるんでしょ?」
「……もう……言わないでっ!」
「流石の楯岡でもあの怪我じゃ、もう私達の敵ではないわ」
「……まだ、私がいる」
「ふふふふ、貴方じゃ私達の敵にもならないわよ」
「そんなのやってみなきゃわからないじゃないのっ!!」
「まぁ、いいわ。このまま京都から出れば私達は何もしない。昔のよしみと今日のお礼で見逃してあげるけど……邪魔をするなら3人とも潰すわ。常に敵の敵は味方ってわけじゃないのよ……それをよく考えることね……」



愛する者を傷つけてしまった自責の念は拭えるのか。

「とら……ごめんね」
「いや、お前が謝るこたぁねぇよ」
「ごめんね……起こしちゃった?」
「こうやって枕元で泣かれたんじゃ、落ち着いて眠れねぇっつうの」
「そうだよね……ごめん」
「何かあったのか?」
「……うぅん、何もないよ」
「……そうか?」
「心配かけちゃって、ごめんね」
「お前さ……さっきから謝ってばっかりだな」
「そうだね……」
「あのな……気にすんなよ」
「うん……ごめんね……」



すれ違う思いと想い。

「たったっ大河サンッ!!静流サンが居なくなってるデス!」
「マジかよ……」
「あっ……あの……リーディングで読んじゃったんデス。詳しくは分からないケド……多分静流サンは……あの……その……」
「多分何だよっ!!」
「刺し違えてデモ……向こうを殺す気デス……」
「……あんの馬鹿っ!!」
「待て、大河」
「何だよ……さっさとあの馬鹿を連れ戻しに行くぞ」
「貴様は来なくていい……足手まといだ……」
「……何だと??」
「そんな体で来られても死体が一体増えるだけだ……寝てろ」
「そっ……そうデスよ、大河さん。そんなにフラフラしてるじゃないデスか」
「くっ……」
「それに……貴様は最後の切り札だ。今のうちに僅かでもいいから体力を回復させておけ。心配するな、静流様は必ず俺が連れ戻す」
「レイナ……肉買って来い……血が足らねぇんだよ」
「でっ……でも」
「いいからさっさと買って来い!!」



蘇る思い。

「とらちゃぁん……」
「大丈夫だよ、茉璃ねーさん。俺が一緒にいるから。いつまでも……」
「とらちゃん……」
「大好きだよ、茉璃ねーさん」



明日を生き抜くために戦う。

「康哉は、三隊を率いて、側面から討って」
「しかし、静流様。それでは本体が手薄に」
「それが狙いなの。ね、とら。わたしは、おとりなんだよね」
「ああ。これで敵を、500は減らせるだろう」



たった一つの誓い、そして大事な者を守る為、男は戦う。

「さすがは楯岡といったところですね、そんな体でここまでやるとは思いませんでしたよ」
「藤堂……お前だけは絶対に許さねぇよ」
「この際です楯岡、私にに協力しなさい。いつまでも闇の中で生きるのは辛くはないですか?私達にに協力すれば、好きなように生きる事が出来ますよ」
「うるせぇ……黙れ、この下種が」
「何が貴方をそこまで戦わせるのですか?楯岡の使命ですか?それとも百地への忠誠ですか?」
「そんなんじゃねぇよ……確かにそれもあるけどよ、そんなの今は重要じゃねぇ」
「ならば何故?貴方ほどの力あれば、そんなしがらみなどは苦でもないでしょう……」
「てめぇは……静流を泣かせたんだよ……それだけだ。だからてめぇは俺がぶっ殺す。それがあいつを刃の下においた俺の役目なんだよ!!」



刃の下に〜刃の下にUの間で起こり、そして書かれる事の無かった物語。

修学旅行で訪れた京都で起こった、歴史上最大の忍者合戦。

その時大河、静流、康哉に何が起こったのか??

再び大河達の前に表れた茉璃の目的とは何か??



刃の下に 外伝 〜京都大戦〜



―――プロローグ

「あ〜ぁ……何なんだよ、しけてんなぁ……」
「ちょっと、とら。いい加減に諦めなさいよ」
「そうだぞ、大河。男がいつまでもうじうじと情けない」

今日は珍しく、俺、静流、康哉で帰ってたりする。
俺にしては珍しい方だな。
さっきから俺が文句言っても、二人は同調しようともしねぇし。
うわっ、つまんねぇ。

「つうかよ……今時修学旅行で京都はねぇだろ、京都は」
「だから……しょうがないでしょ。うちの学校の修学旅行は伝統的に京都なの」
「京都ってよ……今時の小学生でもいかねぇと思うぜ」

何がつまらないって、修学旅行が京都って事だ。
別に修学旅行に夢を抱いてた訳じゃねぇけどよ……
京都はねぇだろ、京都は。
こちらと学校生活とは殆ど無縁な生活を送ってきたんだから、こういう時ばっかりは青春を謳歌してぇと思ってるってのに。

「ふん……小学生なみの貴様には京都がお似合いだ」

あらら……康哉君、君は割かし酷い事を言ってると思う。

「ちょっと、康哉」
「いいんです、静流様。この様な男に気を使うなど勿体無いです」
「……ほ〜、そうですかそうですか」

これしきの事で傷ついたりはしないが、あえて此処は傷ついた振りをしてみる。

「そうだよな……」
「らしくないな……」
「とら……どうしちゃったの?」

よしよし……二人とも引っかかってる引っかかってる。
このまま演技を続けてやれ。

「いやさ……俺ってまともに学校行ってなかっただろ……
 だからさ……修学旅行なんて久々なんだよ」
「……そうだったね」
「だろ?だからよ……勝手に期待してたんだ……どれだけ楽しいだろうな、とかどれだけ思い出作れるかとかさ……」
「とら……」

いよ〜〜〜〜〜しっ!!
いよ〜〜〜〜〜しっ!!
静流は完璧に引っかかった。
あとは康哉だ。
こいつはいつも散々騙してるだけあって、中々のってこない。
流石石川次期党首だ。
関係ねぇけど。

「そりゃぁよ……静流と康哉は俺と違ってちゃんと学校行ってたわけだろ。この間みたいな文化祭も、体育祭も修学旅行も何度もやってるよな……」
「……む」
「そうだよね……とらは」
「こんな愚痴みたいな事言いたかねぇけどよ……俺よ……初等部終わったら直ぐ仕事に行っちまったし」

さり気に自分を卑下するとともに軽く二人を詰るのも重要だ。

「ちょっと……康哉。とら落ち込んじゃってるじゃない」
「いや……静流様。そう言われましても……」

もうちょっともうちょっとで完全に騙せる。

「ほっ……ほら、とら。京都でも修学旅行に行けるんだから……ねっ」
「そうだぞ……大河」

二人の意識は完全に俺が掌握したな。
とりあえず近づいて来た康哉には肘打ちでも打ち込んどくか。
馬鹿にされちゃったしな、因果応報だ。

「そうだな……小学生並で悪かったな!!」
「ごふぅっ!!」

康哉が崩れ落ちる。
うん……近年稀に見るクリティカルヒットだ。

「とら……あんた落ち込んでたんじゃないの?」
「これぐらいで落ち込む訳ねぇだろ」

むしろお前等を騙す為に落ち込んだ振りをしてただけだ。
静流はもとより、康哉も騙せるとは俺の演技力も捨てたもんじゃないな。
アカデミー賞は無理でも、ブルーリボン賞ぐらいはとれるんじゃねぇか??
いや〜、しかしホントに綺麗に肘が入ったな。

「ふ〜ん、せっかく可哀想だなって思ってたのに」
「いや、別に思わなくていいから。そんなにガキじゃねぇよ」
「……大河、貴様……覚えてろ……」

足元では康哉が苦しそうにもがいている。
油断してるところに、思いっきり肘を鳩尾にくれてやったからな。
暫くは立てないだろう。
普通の人間だったら内臓が破裂するぐらいの威力だったんだが、とっさに気を入れて防御するとは。
さすが石川。
まぁ、俺も康哉なら大丈夫だろうと思って力一杯遠慮なく入れたんだけどな。
普通の奴らにはこんな事出来ねぇって、いやマジで。

「でも、さっきもそうだけどホームルームのにで残念そうな顔してたじゃないの」

さすが静流さん、良く見ていらっしゃる。

「あ〜……確かに残念だと言えば残念だったよ」
「どうして?」
「だってよ……俺ハワイとかに行きたかったんだよな」
「ハワイ??あのハワイ?どうして?」
「まぁハワイじゃなくても南国なら何処でも良かったんだけどな」
「うちの学校が海外に行ける訳ないでしょ……でもそうして、そんなに南国に行きたいのよ?」
「いや……だってよ。学年中の女が太陽の下水着になるだろ。それに現地の金髪美女達だってわんさかいる。もしかしたらトップレスかもしんねぇだろ? 想像するだけで楽しくなってくるな!!」

やべぇ……想像したら俺のアニマルが元気になってしまいそうだ。
落ち着け、落ち着くんだ、マイアニマル。

「何で私が居るのに、そんな事考えてるのよ!!」

ブォンッ!!
反射神経のみで屈んだ俺の頭上を薙刀が掠める。
……マジか?
今少しでも避けるのが遅かったら、ぱっくりと頭割られてるぞ……
つうか……今のスピードは並じゃねぇ……さすが百地次期当主。
それにどっから薙刀なんて出したんだ??
薙刀を良く見てみると継ぎ目が二つ。
あぁ、アレか。
三節根みたいになってんのか。
しかし、一呼吸の内に取り出して繋げて攻撃してくるとは感心してしまう。

「待て!静流!別に手を出すわけじゃない! 目で犯すだけなんだ、視姦ってヤツだ!」

「それも私の中だと立派な浮気なのっ!!」

突き、薙ぎ、袈裟斬りとバリエーション豊かに攻めてくる。
しかもちょっとずつリズムと角度を変えてるから避け難いったらありゃしねぇ。

「ちょっと待て。俺の頭の中の妄想にまでお前は干渉するってのかよ」
「くきーーーーーーーーっ!そんな事考える方が悪いんでしょ!」

うわっ……こいつ、男の性をわかってねぇ……

「そんな事言ったら、エロ本だってエロビデオだって見れねぇし、エロゲーだって出来ねぇじゃねぇかよ!!」

エロゲーなんてパソコン持ってないから出来ないけどな。

「浮気!!そんなの浮気に認定してやる!!」

ザシュ!
制服の胸元が一文字に切れた。
ボクシングで言うところのスゥエーバックで避けきったと思ったんだが……
どうやら、薙刀を持つ長さを変えたらしい。
今までの間合いは騙しだったのかよ。
口調は荒々しいってのに、戦い方は以外に冷静だ。
頭に血を上らせて、優位に戦いを進ませるのが俺の流儀なんだが……
今まで散々馬鹿にしてきたからなぁ……学習もするか……

「おいっ!切れてる切れてるって!! それにお前だって、俺以外でする事あるだろうがよ!!」
「わたしはとら一筋だもん!!」

……凄い恥ずかしい事を言ってる気がするぞ。

「……そりゃ、ありがとう」
「だからとらもあたし以外でするな!!」

……凄い勝手な事を言ってる気がするぞ。

「つまりはアレか……ジェラシーって奴? お前も可愛いトコあるな、静流」
「うるさい!! うるさい!! うるさい!! うるさ〜〜〜〜〜〜いっ!!!!」

ぐぉ……さらに連撃が速度を増してきた。

「おっ……落ち着け、静流!!」

そろそろ鶚が無いときつくなってきたぞ……
とは言っても、こんな攻撃を避けながら鶚を着ける事なんて出来る訳もない。
よし……逃げるか。
そうと決まれば話は早い。
俺は楯岡である前に、五遁の大河と呼ばれた男だ。
自慢じゃないが逃げるのは得意だ。
自分で言ってて悲しくなってくるけどな。
っつう事で隙をついて後ろへジャンプ。

「ぐぇっ!!」

やべ……すっかり存在を忘れてた康哉を踏んじまった。
ちなみに踏む寸前に気付いてはいたのだが、そのまま踏む事にしたのはここだけの秘密だ。

「とら、待ちなさい!」
「ぐほぁっ!!」

お〜、俺を追いかけようとした静流も康哉を踏んでるし。
康哉は可哀想な事に静流の目に入っていなかったらしい。
手加減なしで踏まれてんぜ……あっ、この場合は足加減なしだな。
あ〜ぁ、悶えてる悶えてる。

「んじゃ!!また明日な!!」

力の限りダッシュだ。
そもそも待ちなさいと言われて待つわけがない。

「とらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!覚えてなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

長い付き合く、俺の逃げ足の速さを知ってるだけに追いかけてこようとしない。
振り返るとそこには赤鬼が……ってすっげぇ怒ってるし……
前にもこういう事あった様な気がするな。
考えてみれば、よく飽きずに毎日同じ様な事してるよな。
別にいつもと違う事がしたいって訳でもねぇし。
何も無い平和な時間が続くならそれにこした事はないだろう。
帰ってきてから戦ってきてばっかりいるが、俺も戦いが好きって訳でもない。
束の間とは言え、平凡な学生の平凡な若者の平凡な時間を過ごしてみたっていいじゃねぇのかな??
無理とは分かってるけどな。
まぁ……そんな感じの修学旅行になるんなら京都でもいいか。
何もないといいんだけどなぁ……




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